099
その99です。
心のどこかでは「ネコしか入れない場所を案内されるのでは?」なんて心配があったのだけど、もちろん杞憂に終わった。
グワンセンとやらの中は、相当な湿気と悪臭、コケやカビやキノコなどなどに彩られたモザイク状態だったが、ぴるるは我が家のようにするすると進んでいく。そして、その進む先に人の気配がまるで感じられない。
まるで全体を俯瞰して眺めているようだ――感心する人間たちに、ぴるるは少し得意そうに鼻を鳴らす。
「我が氏族にとっては児戯に等しい。我らの『刃』は、周囲の生命体の位置はもちろん、その強さや感情も察知できる。だからこそ我々は今も生きている」
「確かに、この国じゃそういう能力がなきゃ危な過ぎるな。……これはオフレコで」
素直に賛同した榊が年少者二人に口止めする。わざわざ念押しするような内容ではない気がするが、立場としてわきまえねばならないのだろう。
上がったり下がったり、同じ場所をぐるぐる回ってるような感覚になったり、十五分は歩いたかと思っていれば三分しか経過してなかったりと、タユーも泰地も口には出さないけれどウンザリ気分が腹七分ほどに溜まってきたところで、やっと先頭を歩く猫が静止した。
「この角を左に曲がった先に大部屋がある。部屋には二十五人ほどがいるが、おそらく四人は見張り役で、残りが浚われてきた者達だろう」
「他の部屋にはいないのか?」
「年齢が若く、怯え苦しみ憎しみを抱く者はこの部屋以外には見当たらない。というよりも、この人数をまとめておける広さの部屋がない」
これだけ複雑な建物だから、少人数に分散して監禁するのは容易いだろうが、その分見張りを増やすことをデメリットと判断したのだろうか。
あのリョウウンとかって会社で発見されたような小さな子供だけを誘拐してきているのなら、大人四人でも不測の事態への対処はできる。むしろ、万が一「発見」されるリスクを減らしたいのかもしれない。
どうあれ、この部屋以外にはいないというのはありがたい話だ。
「どうするんですか、榊さん? 四人とはいえ、荒事に慣れてるでしょうし」
「心配は無用だ、孕石。こっちには文明の利器がある」
頷きながら榊が取り出したのは――どう見ても発煙筒だった。
次回は大台ですね。
・・・・・・何もありませんが。