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097

その97です。

「では、案内をしよう。ついてくるがいい」


 人気がない路地を進むハチワレの後を付いていく人間三人。非常に怪しい光景だが、通行人がいないのが幸いだ。


 ぴるるの足に迷いはない。しかも、思ったよりも早い。大人である榊が普通の歩調でも踏んでしまうようなことはない。やはり普通の猫とは違うのだろう。



「目的地までは、あとどのくらいなんだ?」


「十分もないだろう。しかし、問題はその先だ」


 歩みを止めないまま振り返るぴるるの声音は、相手を心配するものだ。


「事前調査の時間がなかったから、かなり厄介な場所だとしか聞かされてないが、地元の人間も警戒するような場所なのか?」


「ああ。貧困窟の中にあるそれは、グワンセンと呼ばれている」



 元々は街を囲む壁の一部だったのだが、拡張に伴って取り壊された跡地で難民たちが寝泊まりするようになり、やがて簡単な小屋を建て始め、行政の目が届かないのをいいことに無秩序な増築を繰り返していった結果、巨大な城と迷路が融合したような建物へと成長してしまった。



「なんか聞いたことがあるような話だな?」


「タユーの姉さん、アレですよ。香港にあった九龍クーロン城」


「惜しいな、孕石。あれって九龍城砦ってのが正式名称だ」


 急に和気藹々と会話を弾ませる異世界人たちの姿を、ぴるるは悲しげな眼で捉える。


 グワンセンの恐ろしさを知らないからこその明るさなのか、恐怖心を誤魔化すためにカラ元気を振り絞っているのか――ぴるるはそう考えていた。



 けれど、当の三人は普通に会話を楽しんでいたのだから始末が悪い。



 無論、未知の異世界にあるスラムなんて危険だらけなのは百も承知している。


 まして、そんな場所の九龍城砦みたいな建物が目的地などとあっては、舞台を整え過ぎだろと呆れてしまうレベルだ。


 彼らが傍から見れば余裕綽々のように見えるのは、やはり心のどこかで「まあ、ルデル様がいればどうにかなるだろ」的な安心感があるからに他ならない。なんだかんだでピンチになったら助けてくれるだろう、と。




 そんな人間たちの思惑を知ってか知らずか、魔王サマは瞑目し沈黙を守ったままだった。

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