096
その96です。
「自己紹介をしよう。私の名はぴるる。三日月の刃の氏族だ」
飛び石のようにひょいひょいと小川を渡ってきた猫。彼(?)が喋っているのは間違いない。
けれど――泰地は笑いを堪える努力が必要だった。多分、他の二人も同様だろう。
外見はどう見ても普通の三歳前後の猫。十人が見れば十人とも「かわいい」と口を揃えるに違いない。
そんな容姿も声もかわいい猫が「三日月の刃の氏族」なんて厨二ワードを発した上に、自分の名前は「ぴるる」だというのだ。笑わせにかかってるとしか思えない。
しかし、オーリン皇子の名前を出しているからには、冗談と聞き流さず確認が必要となる。榊はもう一度咳払いをした。
「失礼。政を成すは」
「ナオモクスルガゴトシ」
ぴるるが合言葉を唱えた。意味が分かってなさそうなのは仕方がない。「政を成すは猶沐するがごとし」とは、古代中国の格言なのだから。
「ありがとう。では、自分たちも自己紹介させてもらう。私は榊。一応、この中では責任者となっている」
「おいらはブルーマロウ・タユー。タユーでいいぜ」
「俺は――」
「ルデルはルデルなのだ。こっちは我が座なのだ」
はいはいお約束お約束、と泰地はスルーすることにした。
これから先、魔王サマが頭上にいる限りはずっとこの調子になるのは確定的なのだ。諦めた方が楽になる。
「うむ。よろしく頼む――あれ?」
重々しく頷くような声のぴるるだが、なぜかその身体は仰向けになって寝そべっていた。完全に無意識で腹を見せていたらしい。
(あー……野生だから、自然とルデル様がどういう存在なのか分かるんだな)
起き上がりながら首を捻る猫を、榊とタユーはほんわかとした気分で見守っていた。
更にあざとい行動をさせてすみません。