095
その95です。
西門をくぐり、都の中に入った一行だったが、門の内と外で印象はたいして変わりなかった。
「日本の歓楽街も昼間だと寂しい限りだけど……ここはそんなもんじゃないな」
「シャッター街の方が、まだマシな感じだぜ」
榊とタユーの嘆きどおり、人の気配も生活臭も感じられない虚ろさが広がっている。太陽の光の下なのに、月のない夜のような異様な静けさに沈んでいた。
オーリン皇子が用意してくれた「協力者」との合流場所へ向かう一同だが、その足は自然と早くなってしまう。不自然な街並みに、どうしようもなく不安を掻き立てられるのだ。
半分走るような勢いで目的地――焼け跡になった九つの家の先にある小川の橋の下――に来たのだが、相手はまだ到着していないようである。
やれやれ、とタユーは手ぬぐいで額を拭き、男性二人は川辺に座り込む。
目の前を流れる川は、ぱっと見た目は綺麗なのだけど、魚や虫などが見当たらなかった。水を飲む気はなかったのだけど、やっぱり落胆を止められない。
「街の全体を巡った訳じゃないですけど、かなりヤバい状況じゃないですかね?」
問うような口調の泰地だが、答えは期待してなかった。
ハセン皇国に潜入してから三十分も経過してないのに、視覚情報の全てがネガティブな印象しか受け止められないのはかなり異常だ。いわゆる物乞いが現れないのは、時間が早いせいなのか、仕事にならないせいなのか?
「ふふふ」
魔王サマが、またどこかへ視線を向けながら微笑んでいる。泰地もそちらを窺うが、興味の湧きそうな何かなどまるで見当たらない。
「どうしたんですか、魔王サマ? 喧嘩でも見えるんですか?」
「違うのだ。それより、協力者とやらが来るのだ」
ルデルが別方向――対岸へ顎をしゃくると、大人の腰の高さくらいにまで成長している雑草がわずかに動いた。
「気付いていたか。さすがと言うべきだな」
カッコいい言い回しだが、その声はちょっと高い。小学校高学年男子のそれである。
榊は立ち上がると、咳ばらいを一つした。
「失礼。協力者というのは君なのか?」
「いかにも。我が士族の盟友であるオーリン皇子の頼みとあって参上した」
がさり、と草葉を分けて現れたのは――――ハチワレの猫だった。
明らかに狙ったキャラで申し訳ないです。