094
その94です。
森から出発した一行は、程なくして高い壁にぐるりと囲まれた街――首都であるチョチンへ辿り着く。
「ありゃ、これは……」
タユーが呆れた声を出すのも無理はない。チョチンの防壁には東西南北それぞれに門があるのだが、彼らの前にある西門――というか、その周辺の壁や道などが酷い荒れ方をしていたからだ。
廃墟とまでは崩れてないが、これを首都とは呼ぶのは憚られるレベルである。
「この西門は、いわゆる歓楽街やらスラムに近い位置にあると聞いていたけど、それにしたってひどいな」
石畳の隙間から伸び放題になっている雑草を蹴りながら榊が呟く。門の両脇に立っている警備兵も周辺環境を整える気力などないようで、昼間から欠伸を隠さない。
「あー、とまれー。免状を見せろ」
一行を発見した門番が、何かの呪文のように唱えた。
それに応じて、榊とタユーは懐から折り畳まれた紙を取り出す。門番はそれを開くと、ちらちらと紙と二人に視線を送って、「よし、通れ」と免状を返した。
……正直、ここまであっさり上手くいくとは信じられない。
免状はオーリン皇子が用意したものだから問題ないが、問題は容姿だ。
いわゆるローブのような外套を頭からすっぽりと被っているのはあからさまに怪しい。
ハセン皇国は国土の半分以上が砂漠に覆われているので、このような服装は珍しくないそうだし、日本人に似た外見なので榊は大丈夫だろう。しかし、まだ幼いと言われるであろう年齢なのに派手な和服を着ているタユーは問答無用で目立つ。
……はずなのに、門番はまるで気にする様子がない。完全に書類の不備だけを確認するだけにしか注意を向けてない上に面倒や厄介事を忌避しているのだろう。見事なザル状態である。
そしてルデルと泰地――は、外套を被らず(魔王サマが拒否したため)、免状も出さないのに門番は制止させない。
あまつさえ「よし、通れ……いえ、どうぞお通りください」と言い直す始末。
「すまないのだ。ここでは我が座以外の認識を歪ませるまでには、ルデルの能力が上がっていないのだ」
「いや、もう色々と勘弁してください」
本日は、もう一編更新させていただきます。