093
その93です。
「フム」
眩しい木漏れ日が降り注ぐハセン皇国に降り立った泰地たちだが、なぜか魔王サマはあらぬ方向に興味津々のご様子だ。
「どうしたんですか、魔王サマ? そっちの方が都のナントカなんですか?」
泰地はそう問いかけるが、明らかに違っていると確信している。ルデルの瞳は地平線ではなくその上――今いる森の、木々の上方へ向いているのが分かっているからだ。
案の定、魔王サマは「何でもないのだ」とはぐらかす。
この魔王サマは、意外と秘密主義者なのが難儀だ。ギリギリのタイミングまで隠す気満々である。今のところは、それで致命的な損害が出たわけではないのだけど、将来においてどうなるやら……少年の胃が軽く痛みを主張した。
先に来ていた榊は、ルデル、タユー、泰地が揃っているのを確認すると、改めて説明を始めた。
「先に言ったとおり、これから都であるチョチンへ潜入する。それから、オーリン皇子が個人で雇ったという協力者と合流し、警察手帳端末の時計で2130になった時に襲げ――もとい、一斉家宅捜査を開始する。
今回の捜査も、基本的には前回の場合とあまり変化はない。
ハセン皇国首都であるチョチンに四カ所、そして周辺の街に五カ所判明している「組織」の隠れ家に、ウン課の捜査員たちが一斉に踏み込む流れだ。
ただし、今回はそれに呼応するようにオーリン皇子が騒動を開始する。あまり捜査が長引くと、いらぬ火の粉を被る羽目になりかねない。日本の法律が届かない場所である以上、多少は強引な手段もやむをえまい。
「で、荒事担当としておいらたちが引きずり込まれたってことかよ」
「すまんな。俺は変装しか取柄がないから」
泰地にとっては意外だが、榊は卓越した変装以外は一般人と大差ないのだそうだ。一応は剣術をたしなんではいるものの、魔法などに対抗できるはずがない。
今回のオーリン皇国のように、「基本的人権」なんて概念がそもそも存在してないようなケースでは、結局のところ純粋な「力」で押し通すしかないのが現実である。
「あの御手杵を街中で暴れさせるわけにはいかないし、また俺がプロレスやらんといかんのか……」
どんだけシュールな光景だよ、と少年は落ち込むばかりだった。