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092

その92です。

 扉を開けて外に出ると、夜風に冷たさが嶺華の全身を突き刺してくる。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


 一秒と空けず、須郷赤が自動車のドアを開き、須郷紫が薄い上着を羽織らせてきた。このさり気なく無駄のない心遣いに、嶺華は素直に「ありがとう」と礼を告げる。



(それにしても――)



 思考を深めながら、彼女はトヨハ製の最高級乗用車に乗り込む。


 昨今はこのようなセダンタイプではなくミニバンタイプを好む富裕層も増えてきたが、山井家では一貫してミニバンタイプは所有していない。ミニバンに対する偏見があるのも否定しないが、何よりこの最高級車に積まれているエンジンがヤマイ製という理由が大きい。


 その心地よい静粛性、滑らかな加速、余裕ある安定性――ミニバンを少し改良した程度では引き出せない、本物を突き詰めた上質である。


「赤、紫」


 左右に座る双子に、豊波姉弟へつまらない工作を仕掛けた人間をピックアップするよう伝える。早ければ明日の今ごろ、遅くとも日曜にはリストが提出されるだろう。


 自らに隙があった事実には反省するが、それを利用して政治的な問題に発展させようとした輩を許す道理はない。



(しかし……繊里さんは優し過ぎる)



 最初に話を聞かされたであろう豊波継一郎が口出しをしなかったのは、その程度なら問題にならないし、嶺華自身が察知して解決するべきだという考えからだろう。


 浜松から離れた豊田までわざわざ呼び出して注意喚起をしてくれた繊里には、もちろん嶺華は感謝しているが、同時に甘過ぎるという認識も抱いてしまう。


 この場合は、継一郎の対応が正しいのは疑いない。だからこそ、繊里は後継者争いから真っ先に降りたのだ。


(もっとも、本人が辞めたと言っても周囲はそう受け取ってくれないのが世の常だけど。おかげで色々と噂話が耳に入ってくるようだし)


 「一流企業創業者一族の直系」というだけですり寄ってくる連中は後を絶たない。


 そんな彼らのもたらす情報は、くだらない噂話も多いが有益な一手となるものも含まれている。なので無下にできないのが痛痒いのだが、これも生まれた環境故の宿命と諦めるしかないだろう。


(特に最後の話――先週末にあの会社のグループ全体に強制捜査が入ったって話は、ちょっと看過できない。胡乱な連中が騒がないといいのだけど)




 高速道路に入ろうかというところで、嶺華のまぶたが重くなってきた。睡魔に支配される寸前に感じたのは、ブランケットをかけられる優しい感触だった。


次回から本編(?)に戻ります。

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