087
その87です。
「そんじゃ、質問いいか?」
「はい、タユー君。どぞどぞ」
雪郷に指差されたタユーは律義に立ち上がった。真面目な性格だろうと感じていたが、真面目すぎて損をするタイプではないかと心配になる。
「何でそんなに急いでるんだよ? そのナントカ皇国が今日明日で滅ぶって話じゃないんだろ? 街の人たちの生活が苦しいってのは同情するけど、えーっと……そう、急いては事を仕損じる? だっけ?」
あー、と雪城が後頭部を掻く。その間に、榊が渋い表情でスクリーンの前に歩み出た。
「それについてはっきり言ってしまうと、こっちも向こうも早期決着を望んでいるからなんだ」
公安ウン課本部としては、事件の責任者である親会社社長を証拠隠滅される前に逮捕したい。一斉家宅捜査で立件に必要な証拠は集まっている。ただ、念のために最後の一押し――犯罪組織側が管理している帳簿、加えてボスや幹部による証言が欲しい。
オーリン皇子としては、民衆たちの生活も心配だが、時間の経過とともに皇帝たちが自分とウン課の関係を察知する可能性が高まることも問題視している。皇帝が油断して動かないととしても、腰巾着どもが動き始めたら厄介なのだ。
「皇帝は、元々口うるさかったオーリン皇子を快く思ってなかったし、ウン課の存在を知って警戒を強めていると考えるのが自然だ。そういう意味では、一気呵成に動くのは賭けの部分が大きいのは否めない」
「でも、大々的に動いちまったから、失敗できない上にダラダラ長引かせるわけにもいかないってのも本音なんだよねぇ。まして、うまくやれば明日にもケリがつけられるってニンジンをチラつかされたら、もう猫まっしぐらよ」
あっはっは、と笑い声を出す雪郷だが、その目は笑っていない。榊は瞼を閉じているが、内心は似たり寄ったりなのだろう。そしてタユーも、観念したように天を仰いだ。