084
その84です。
「……なんて有頂天になっていた時期が、俺にもありました」
「虚しいよなぁ。誰かが言ってたっけなぁ、大人はウソをつくんじゃない、間違えるだけだってなぁ」
やさぐれる泰地とタユーに、雪郷も榊もさすがに困ったような表情である。
「いや、さすがに悪いと思うさ。しかし、今回に関してはかなり特殊っつーか、予想外の連続っつか」
頭を掻きながら雪郷が紙を配り始める。
気だるげにタユーは手元に置かれた紙を一瞥した。
「んー……ハセン皇国? ここが例のゲートが繋がっていた先って話かい? これがおいらたちを木曜日の夜に呼び出した理由か?」
イラつきを瞳に宿す彼女に、雪郷は「落ち着いて聞いてちょうよ」と両手を軽く挙げて宥めるような仕草をする。相変わらず神経の逆撫で芸は一流だ。
さすがにマズいと察知したのか、榊が口を開いた。
「結論から言うと、ハセン皇国とは交渉にならなかったんだ」
「交渉にならなかったって、どういう意味です?」
「そのままだよ。ハセン皇国は、そんなものは知らない、さっさと帰れと門前払いだ」
ええー、と年少組二人が期せずしてハモる。相手が法治国家でない場合も想定していたたけれど、テーブルに座る気すらないとは予想外である。
実際のところ、公安ウン課は全国一斉捜査で多数の証拠を押収できた。その中には、ハセン皇国人と思われる孤児などはもちろん、同じく皇国人であろう犯罪組織の人間も確保できている。
しかし、ハセン皇国政府――というか皇帝は、それらを一顧だにしなかった。
「こっちも親会社の検挙が控えていて時間がないから、例の無意識の世界で準備をして臨んだ。もちろん万全だったと言えないのは事実だ。だけど……」
榊が飲み込んだ言葉は、この場の全員が理解できた。怪しさ天井知らずである。
犯罪組織の構成員を拘束し、その組織に拉致誘拐された被害者を保護しているというのだから、何はともあれ話くらいは聞かねばならないのが常識だ。それを一切無視するなんて、皇帝の頭の程度を疑うよりも、皇帝の影を疑わざるを得ない。
「でも、皇帝に否定された以上は、もう手出しはできなくなったってことですか?」
泰地の質問に、雪郷が加えていたシナモンスティックをピンと立てた。漫画だったら先端に花が咲いている場面だろう。
「いや、別ルートのフラグが立った。そんじゃ、こっからは地下基地へ行こうか」
本日はもう1編更新します