083
その83です。
「ふっ、よかったですね、休みになって、ふっ、ふっ」
「そうだねぇ。……あのおっさんだから……油断できない気がするけど……」
魔王サマに付き合わせれての早朝ラジオ体操に、今は泰地だけではなくゲアリンデも参加するようになっている。というか、イヤイヤ動いている泰地に対して、ゲアリンデは非常に真剣だ。
最初こそ、少年の頭の上に載ったままラジオ体操をする魔王サマをハラハラしながら見ていたのだが、数日ですっかり慣れてしまった様子。染まるのが早過ぎのではないか、と心配になる泰地だった。
そんな気分を一新すべく、彼は少し大き目に声を出す。
「ゲアリンデは、どっか行きたいところとか、欲しいモノとかはあるの?」
「欲しいモノ……とりあえず、服がもう少し欲しいですね」
確かになぁ、と少年は納得する。何しろ、現状のゲアリンデは学校の制服と体操服以外は、マエカケさんから譲り受けた服を持っていない。年頃の娘さんとしては忸怩たる思いがあるのは間違いない。
(つか、異世界の元王族が学校指定のジャージを着てラジオ体操するってどうなのよ)
そう。ジャージの樂さ加減にすっかり魅了されてしまったらしいゲアリンデは、玄関開けたら即ジャージ状態になりつつある。
これで外出するようになったらマエカケさんに教育的指導をしてもらわねばならんかな――と、泰地は冗談交じりに考えている。
もちろん、ゲアリンデ自身にも自覚はあるから「服が欲しい」と言っているのだろうが。
「いろはたちの都合が心配ですけど、楽しみですね、週末」
「あ、それはチャットで確認したから大丈夫。いろはさんも長谷野も行けるって」
「そうですか――ふふっ」
最後の深呼吸の動作に入りながらゲアリンデが微笑みを漏らす。薄暗い曇り空なのに輝くような笑顔だ。
平和だ。
週末が休みであるだけで、心も身体も健やかに穏やかになれる――泰地はしみじみと深呼吸を繰り返して朝の少し冷たい空気を堪能した。