008
その8です。
微妙な温度差がありながらも、「食事会」は穏やかに進んでいく。主なオカズは互いの自己紹介や近況だ。
「お兄さんと二人暮らしですか」
「はい。兄の仕事の都合で日本に来たので」
いろはとゲアハルトの会話を聞いた泰地は「はッ、兄ねぇ」と口元を歪める。
これに、たまたま牛乳を読むべく本から目を外した長谷野が反応した。
「おい孕石、どうしたんだよ。つか、土曜のことがあったから気が回ってなかったけど、お前も朝からおかしかったな? バイトでなんかあったのか?」
「バイト――あー、うん。あったなぁ、バイト。色々諸々あったよ、バイト」
壊れたのように「バイト」を繰り返す少年の姿に、長谷野はもとよりいろはも「ハラミ君? お腹痛いの?」と慌ててしまう。
事情をある程度承知しているゲアハルトは、事態の収拾を求めて視線を忙しなく動かした挙句……泰地の頭の上で寛いでいる魔王サマに縋るしかない、と結論付けた。
期待を向けられた魔王サマだが、やる気など全くない様子。
「ほっとけばいいのだ。初仕事で疲れたのも事実なのだ。しかし、我が座は浪漫よりも快適性や利便性を優先させたことに拗ねているだけなのだ」
「スネてる?」
三人に怪訝な顔をされた泰地は、きまりが悪そうにご飯を口の中へ放り込んだ。
反論をしたいののだけどできない。守秘義務云々という部分もある。しかし、それ以上に魔王サマの指摘が正鵠を射ていたからであった。
(くっそ。なんだかんだで純粋な悪意ってワケじゃなさそうなのが性質悪いんだよな、この魔王サマは)
次回からは新展開です。