078
その78です。
「………………! ……い! だいじょ……ッ!」
意識が戻った途端に、激しい目眩と耳鳴りに襲われた泰地だが、それも束の間だった。まばたきも許さない速さで五感は正常に戻り、眼前にタユーの顔があったことに慄く。
「たっ、タユーさん?」
「心配させんなよ。見えないところでダメージ食らったかと思ったじゃんか」
やれやれ、と胸を撫で下ろすタユーは、体勢的には泰地の上に馬乗りになっていた。
どうしてこんなー―と焦る泰地だが、すぐに隠し部屋が爆発したことと、その直前に誰かから横へ突き飛ばされたことを思い出した。察するに、彼女が横からタックルして守ってくれたのだろう。
「あー、すみません。俺がボーっとしてて」
「気にすんなって。ハルトとの約束だしな」
にっかりと笑うタユーだが、泰地は「はると?」と尋ね返す。しかし即座に「ああ、ゲアハルトか」と思い至った。彼女は他人にあだ名を付けるのがクセらしい。
どうやら榊たちも無事だったようで、そこかしこから「大丈夫です」「問題ありません」などと声が聞こえてくる。まずは一安心といったところか。
だが、さすがに榊は責任者の立場もあって「くそっ」と舌打ちを漏らす。
「金原の野郎め、逃げるだけじゃなくて置き土産までかましてくれるとはな」
「いや、違うのだ」榊の発言に魔王サマが反論する。「ルデルの目には、あの男が爆炎に包まれるのがはっきり見えたのだ。加えて、現代の日本で証拠隠滅のために施設を爆発させるなんて非常識で非効率な手段なのだ」
「なるほど。言われてみれば、確かにちょっと……臭いますね」
肯定しながら榊は鼻を押さえた。その途端、少年も爆発後に相応しい焦げ臭さの中に、別の――詳しくは表現したくない臭いをかすかに感じ取る。しばらく肉料理が受け付けなくなりそうだ。
「つまり、どういうことだよ?」
首を傾げる魔法少女に、泰地も微妙に理解が追い付いてない状態で答える。
「つまり、あの部長が爆発を起こしたんじゃなくて、別の仕掛けで起こった爆発に巻き込まれたってことですか?」
「その解答では合格点に届いていないのだ」