077
その77です。
バンザイしながら回れ右をするタユーに対し、魔王サマはふむふむと意味ありげに頷く。
「まあ、判断材料が少ないから断言はできないのだ」
口ではこう言っているが、魔王サマはある程度の結論が固まっている様子。
さすが魔王と褒めるところか、所詮はこの程度かと落胆するか――もたらされる言葉に衆目が集まる。
「予想どおり、この部屋は異世界とのゲートになっているのだ」
ルデルいわく、床の石がいわゆる魔方陣の類の役割を果たしているのではないか、との推測である。
おそらくは、繋がっている先の世界ではこの石などに秘められたエネルギーを引き出すことによって魔法を行使しているのではないか――と。シェビエツァ王国のそれとは違う系統らしい。
ただし、もちろん現代日本で使える道理ではない。魔法という概念がない日本人では、口頭で呪文などを教えられても発動は難しいのではないか、とルデルは顎に手を当てる。
「じゃあ、このゲートも向こうからの一方通行みたいな感じなのでしょうかね?」
「そうとも考えられるのだ。けど、それではあまりに実用的ではないのだ。考えられるのは、心得がなくとも行使が可能となる道具なのだ。陳腐なところでは指輪とかなのだ」
ぎょっ、と社長と部長の両手が検められるが、二人とも指輪は嵌めてない。
ほっと安堵すると同時に、容疑者たちがまるで抵抗を示さなくなってしまったので、捜査員たちの心に緩みが生じてしまう。
そこを金原は見逃さなかった。
「おおおおおっ!」
土下座のような姿勢から勢いよく起き上がると、大声で喚きながら隠し部屋に向かって賭け出す。
既に部屋の外に出ていたタユーは間に合わず、隠し扉のすぐ脇にいた泰地はつい避けてしまう。鬼気迫る金原の表情にビビってしまったのだが、魔王サマが邪魔しなかったのが逆に不思議だ。
部屋の中に入った金原は、息も絶え絶えに襟口に手を突っ込む。もう一つのよくあるパターンはペンダントだよな、などとツッコむ暇はない。
なんて馬鹿やらかしたんだ――なんて後悔をする泰地だが、すぐに後を追うべきか榊の指示を待つべきかで迷ってしまう。
「――ッ、全員伏せるのだ!」
ルデルの緊迫した声が響くと同時に、泰地は横から倒された。
間髪入れず、隠し部屋は閃光と爆風で膨れ上がった。