074
その74です。
書類やらHDDやらUSBメモリ等々が、次々に段ボール箱へと放り込まれていく。手当たり次第といっていい勢いだ。
社長と部長も立ち会ってはいるが、手枷をされているせいか完全に無抵抗である。ただ、社長の目には怯えがあるものの、金原の目には得体の知れない何かが宿っている。
手伝おうとして断られてしまい手持無沙汰となった泰地は、部屋の中を邪魔にならないように物色しているうちにある事実に気付き、榊のもとへ駆け寄った。
「榊さん。ここってヤケに芳香剤が多くありません?」
「ん? そういえばこの部屋にも廊下にも、トイレ並みに置いてあるな。あのドローンのビデオじゃこんなに置いてなかったような?」
そう。この建物のいたる場所に、芳香剤が設置されているのだ。この部屋だけでも八個もある。数が多くて罪に問われる話ではないけれど、さすがに怪しさを感じてしまう。
泰地は芳香剤の一つを手に持ってみる。普通に市販されているもので、彼も同じタイプのものを使っている(一つだけだが)。こんなモノに細工なんてできるだろうか?
……と、捜査員の一人の声が響いてきた。
「榊さん! こっちにいました!」
声の主のいる場所――「備品倉庫」の札が掛けてある部屋へ行くと、捜査員の肩越しに人影が見える。その小さな影は一つではない。十歳前後と思しき三人の子供だった。
第一印象は、東南アジア系の子供に似ている。肌は浅黒く、顔立ちは日本人と微妙に似てなくもない。着ている服は簡素でかなり汚れており、靴も履いていない。髪の毛は微妙な長さなので、男なのか女なのか判断が難しい。
怯える子供たちに接近することはやめ、榊は社長と部長をこの場を呼んだ。
「さて、塚原さんと金原さん。この子供たちはどういうことですか?」
あうあうあう、と口を開閉させるしかできない社長を横目に、金原は不敵な笑みを作る。
「さあ? 知りませんよ。どこかから忍び込んだ、ホームレスの子供じゃないですか?」
なんっ、と叫びそうになる泰地を、頭上からの声が制止させた。
「なるほどなのだ。それで逃げ切ろうと考えていたのだ」
本日はもう1編、投稿させていただきます。