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071

その71です。

 そのレッスン場は、明らかにおかしい。


 名前からして「鳥は少しずつ巣をつくる」なんて文章で、「○○スクール」などといった分かり易さが微塵もない。雑居ビルの二階にこんな文章の看板が掲げてあっても、中身が何か想像するだけ無駄というものだ。


 ゲアハルトは、午前中はダンスを履修する運びとなったのだが、その教官というのが紫ラメのタキシードと帽子に身を固めたオネエ言葉の男性という始末で、常人ならばその場で回れ右をするのは必至だろう。


 更に始末が悪いのは、一連の動作の締めに「ホウッ!」等の奇声を発するところだ。


 ソーシャルだろうが、モダンだろうが、ポストモダンだろうが、タップだろうが、ヒップホップだろうが、全てで必ず最後に怪鳥音が出るのだからたまったものではない。



 けれど、その変な癖を我慢して脇に置くと、正確なリズム感とステップ、魅せる手の動きやポーズの決め方等々、確かに一流の技術の持ち主である。彼が躍り出した瞬間、彼の一挙一動から目が離せなくなってしまう。……最後の一声で台無しになるのだけど。


 そんな彼――十朱とあけは、ゲアハルトを前にすると、まずはゆったりしたテンポの曲を聴かせ「五分あげるから、この曲で自由に踊ってみなさい」と告げた。


 いきなり厳しいんじゃないか、と心配する横北だが、ゲアハルトは「分かりました。もう一回お願いできますか?」と慌てた様子もなく答える。




 ……五分後。




 いまの自分ができるすべてを出せた、と確信するゲアハルトに、十朱は拍手を三回だけ送った。


「思ったとおり。微妙によく分からない部分があったけど、基本はしっかり学んでいたようね」


「ありがとうございます」


「ただし、それは恥をかかないで済む程度。確かにあなたの技術レベルは高いわ。しかし、他人がそれを見てお金を払ってくれるか別問題」


「はぁ……」


「これからあなたが学ぶのは、お客さんに見せて称賛されるだけじゃない、お金を払ってでも見たいと切望させるレベルなのよ。王様とかじゃないんだから、もっと技術を磨いていかないとダメ」


 「王様じゃない」……この一言は、ゲアハルトの胸に深く突き刺さった。覚悟を決めているはずなのに、赤の他人から指摘されると動揺してしまうのが情けない。


本日はもう1編投稿させていただきます

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