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「はい、株式会社リョウウン社長の塚原孝史さん。こちらが捜査令状になります。これから令状に基づいて、あなたの会社を家宅捜索させていただきますね。時刻は――」
懐から取り出した書類を開いた榊が、しょんぼりと項垂れている中年男の前で口上を垂れ流し始める。儀式みたいなものなので、中年男には右耳から左耳へまるっと通過していることだろう。
「おー、刑事ドラマとかでよく見るアレだな」
ちょっとワクワクしている様子のタユーに、泰地も同意見だ。責任その他を考え始めると胃が痛くなるのだけど、やっぱりこういう場面には興奮を隠せない。
それにしても、塚原なる名前らしい社長は、見るも哀れな落ち込みようだ。
かなり後退を始めている頭髪は乱れていて、頬も唇も真っ青。まだ四月で少し肌寒いというのにシャツもスラックスも大量の汗で変色しているし、両脇の捜査員に支えられていないと立つことすら不可能とばかりに膝が笑っている。
何より異質なのが、両手の拘束だ。
一般的に知られている鉄製の手錠ではなく、一昔前の奴隷がはめていたような「手枷」である。。ただ、その手枷も鈍色の金属製で、小さな赤い光が点滅していたりと、いかにもハイテクな一品であるのは明白だった。
「本日は、本社から出向している部長が『休日出勤』しているとの話です」
社長の脇を固める捜査員の一人が報告するのを、榊は「業務熱心なことですな」と呟きながら令状を収め、周囲を一瞥する。
榊たちが乗ってきたセダンに加えてミニバンが二台。社長の両脇の二人以外に九人の捜査員が一列に整列している。上司の指示を待つその姿はどれも頼もしい。
完全に場違いだな、と自嘲する泰地を尻目に、榊は部下たちの前に立つ。
「諸君。知ってのとおり、これから全国一斉の合同捜査が開始される。ここからは時間との勝負となる。ただし、無理を通すのは避けるように。何らかの突発痔が発生した場合は、速やかにこちらの二人へ任せるように」
「はっ!」
捜査員たちの覚悟を秘めた佇まいを前に、泰地もつい返事をしてしまった。うわ、と恥ずかしくなるが、隣のタユーの微笑みは優しかった。
「では、捜査を執行する」
総勢十五人は株式会社リョウウンへと行軍を始めた。




