067
その67です。
次にスクリーンに映し出されたのは、建物の設計図だった。
「これは建物の施工業者から入手した設計図だ。隠し扉のある壁はこのあたりになるはずなんだが、この図面では空白になっている」
榊が指差したところには、確かに何もない。というか、問題の壁そのものが無いことになっている。あからさまに怪しい。
「そこで我々は、施工業者の責任者に任意で出頭してもらって、快くご協力をいただいた。その結果、次の設計図が出て来た」
ぱっと画面が切り替わり、問題の壁とその奥に隠された空間が追加された図面となった。
……さらっと榊は説明したが、これを入手するためにどんなことが行われたのか、考えるのが怖くなる。「任意」とか「協力」という単語が、おそらくは国語辞書どおりの意味で使われたのではないのだろう。
泰地は、つくづく非日常な職場に足を突っ込んでしまったのだと頭を抱えたくなった。本当、高校受験合格直後は、こんな未来が待ってるとは予想してなかったのに。
「でもさ」タユーが手を挙げた。「おかしなところがあったのは分かったけど、だからってウン課が出張る理由は何なんだよ。フツーに建築法違反とかそっちなんじゃねぇの?」
「いい質問だ」
なぜか雪郷が反応した。というか榊よりも先に口を開いていた。
画面が切り替わると、今度は奇妙な石の欠片が表示される。火山岩のようにゴツゴツした表面をしているのに、赤・青・緑・黄色などが入り乱れているのだ。
無言で見入ってしまう年少者二人に、雪郷が解説を始める(榊は諦めたように首を振っていた)。
「この石は、隠し扉の奥の空間の床に敷き詰めておくようにと依頼されたモノだそうだ。あまりに変なモノだったから、責任者が数個パクって保管していた」
責任者としては「いざ」という場合の保険のつもりだったらしい。まあ、実際に保険として役に立ったのだから、この人物は幸運だったと言える。
「で、現物を分析して――時間がなかったから大部分が未解析なんだけど、異世界の何かであることだけは間違いないって途中経過の報告が出た。魔力的なサムシングを加えると反応するって話なんだと」
本格的に公安ウン課の管轄となった瞬間である。