066
その66です。
「なるほど。確かに怪しい箇所があったのだ」
頭上で寛ぐ魔王サマの自信ありげな発言に、泰地は「そうですかぁ?」と疑わし気な返答をしてしまう。
この魔王サマ、なんだかんだで妙に観察力や分析力が高いのは散々思い知らされてきた。けれど、どこかで「後付けなんじゃないの?」などと考えてしまう部分がないと言えば嘘になる。
要するに、泰地はルデルをまだ心底から崇拝しているわけではないのである。
そんな座の胸中を見透かしたように、魔王サマは「フム」と軽く鼻を鳴らしてから雪郷へ視線を移した。
「雪郷。今のビデオを八分五十一秒で一時停止させるのだ」
「アッハイ」
命令され、ボスはビデオ再生ソフトのシークバーを動かし……八分三十秒くらいから再生を開始した(これ以上細かく操作できなかった模様)。
再生速度を通常の半分にした動画は、机の上のPCや事務用品、壁の書庫やポスターなどが次々と流していく。そして五十一秒時点では、白い壁が大きく映っているのみだ。
「…………え? これが?」
何の変哲もない壁のアップに、泰地はもちろんタユーも首を捻るばかり。
しかし、榊は呆気にとられたように口をポカンと開いてしまった。
「いやぁ。さすが、としか言えませんよ。まさか一回見ただけで気付くなんて」
雪郷が次の画面へ転換させると「サーモグラフィーによる映像」と表示された。
「あのドローンは、普通の高精細カメラの他にも多種類のカメラが搭載されていて、全て同時に撮影されている。今から見せるのは、その中の赤外線カメラで撮影されたものだ」
青を基調とした画面の中で、赤色の人影やら四角い箱(PC?)が見える。そして、壁は一面真っ青のはずだが――
「あれ? あそこ、色が違うじゃねぇかよ」
タユーが指摘したとおり、先ほどは白い壁だった箇所が、ぼんやり黄色く変色している。
「更に、最初の映像の問題の場面を拡大してノイズなんかを取り除いていったのが、次の画像だ」
「細い黒い線……あ、隠し扉ですか」
「そういうことなのだ」
ふふん、と魔王サマが誇らしげに笑う。これには確かに泰地も舌を巻かざるを得ない。
(鳥とか昆虫とかは人間には見えない光を識別できるって聞いたけど、空の魔王ってそういうこと? あれ? シャコはもっとよく見えるとかって聞いたような?)