063
その63です。
サカキの説明を要約すると、以下のような感じになる。
現代日本には労働基準法を守らない企業は(残念ながら)多いが、東京本部が目を付けたのは「労働基準法に違反した形跡はないのに、扱っている仕事量が明らかに多過ぎる企業」である。
つまり、従業員たちは労働基準法の範囲内で仕事をさせ、その中で賄いきれない部分を非正規の労働力――つまり異世界人に押し付けているのではないか、というワケだ。
「一昔前なら、この手の違法就労者って言えば、不法滞在者とかいわゆる人身売買の類だったんだがね。でも、今はお上の締め付けが厳しくなってきているし、人権団体だとかに駆け込まれたりって調子で、美味しいビジネスじゃなくなってるんだよなぁ」
やれやれ、とくわえたシナモンスティックをピコピコ動かす雪郷。その後を榊が続ける。
「この手の話に付き物の単純労働は、今どきの日本じゃ自動化されてる場合が多い。つか、今どきの日本はバイトに正社員以上の仕事内容と責任を要求するからな。不法滞在者だって裸足で逃げるってもんだ」
「労働環境も問題だけど、生活スペースも問題になるわな。外に出せば逃げられるかもしれんから、限りなく監禁状態にしないとあかんだろう。けど、現代日本じゃそんなの無理ってもんだ」
「この地下基地なんかは、そういう意味では理想的な施設でしょうけどね」
スクリーンには何かのグラフ(不法労働者の摘発数など)が表示されているのだが、説明などは一切ない。とはいえ脱線はしていないので、素直に耳を傾けるしかないのが微妙な気分にさせられる。
それはともかく、集中して聞いていただけに、イヤでも結論は推測できる。
「するって―と、アレか。異世界の何某をムリヤリ連れて来て、タコ部屋に押し込んで働かせてるって話かい。ゲス過ぎて唾も吐けねぇや」
口にするのも汚らわしい、とばかりに天を仰ぐタユー。
確かに胸糞の悪くなる話だが、前に雪郷から「例え話」を聞いていた泰地は、彼女よりは冷静に受け止めることができた。
とはいえ、すんなりと受け止め飲み込めるような内容ではない。
自分たちが快適に生活するために違法な手段を頼らざるを得ないのか――などと考えると、どうにも暗澹と落ち込んでしまう少年だった。