061
その61です。
三人で例の地下基地の事務所に入ると、「お疲れー」と席を立つ人影があった。
「噂の魔法少女と、ルデル様とその座少年か。お久しぶり……でもないか」
どうやら彼――横北と同世代らしい、ボクサーを彷彿とさせる引き締まった細身の男性が、例のホワイトボードに書いてあった「サカキ」らしい。
初対面ではないと言ってるようだが、泰地の記憶に該当する顔はない。
どう応じたらよいものやら迷う少年に、サカキはにやりと微笑む。
「ま、分からんか。ほら、新人研修で死体とか鬼とかに変装してたのが俺だよ」
「え? ああ。ええ?」
言われてみれば、声が同じような気がしてきた。もちろん、あの廃ビルでの「研修」を知っている人間は限られているので、サカキの言葉を疑う余地はない。
(こんな顔だったのか……って、ちょっと待て。人外にも化けられるんだから、この顔が素顔であるとは限らないんじゃないか?)
ウン課に所属して以来(というか雪郷と話して以来というべきか)、ハリセンボンのように全方位へ疑惑の針を向けている少年だった。
雪城は拍手をして注意を促す。
「ほんじゃ、自己紹介とかは二階のブリーフィングルームへ行ってからにしようや。いくら時間を気にしなくていいからって、適当にやってるとキリがないし」
一応は上司としての自覚はあるらしい。一番ダラダラしたいであろう人物からの提案では従わざるを得ないというものである。
率先して階段を上がっていくボスを、タユーが追随していく。その後姿に、サカキは驚きを隠せない表情で呟いた。
「……どうやったら、あんな服と下駄で、あの階段を普通に登れるんだよ……」
「改めて見ると、凄く異常ですよね……」
さっきはタイジの後ろを陣取っていたので気付かなかったが、実際に目の当たりにすると明らかにおかしい気がしてくる。というか、物理法則と人間の可動域を完全に無視しているかのような動きだ。
「しかし、魔法の類は使ってないようなのだ」
「冗談はやめてくださいよ。魔王サマ……」