060
その60です。
ゲアハルトと横北が出て行くのを待ってから、雪郷は例の「隠し扉」を起動させる。
「情報の漏洩を防ぐのが一つと、あそこなら時間を気にしなくていいからねー」
前回のように少し長めの地下階段を下っていくと扉があり、その横には泰地が前回は気付かなかったホワイトボードが掛けられている。
ホワイトボードには既に「打ち合わせ サカキ」と書かれていたが、雪郷はその横に「ユキ、魔、タユー、ハラミ」と加える。
「あ、そういえば」泰地はふとある疑問が浮かんだ。「ヴェリヨさんから聞いた話だと、誰かが先にあの地下基地に入ったら、後から入るのはダメじゃないんですか?」
前回のシェビエツァ王国から帰って来た時も、夏宮たちがゾロゾロ現れたことに微妙な違和感があったのだ。ヴェリヨの話を信じるなら、彼らはどのタイミングで地下基地に来たのか?
対する雪郷は、右手の人差し指と中指をピシッと立て、「チッチッチッチッチ」とゆっくり左右に振り始めた。どうやら「間違いだ」とゼスチャーしているようだが、いちいち神経を逆撫でするような真似は止めてもらいたい。
「相変わらずヴェリヨは言葉が足りんな。正確には、このボードに『出張』の類の言葉が書いてあった場合はダメって話」
これはすんなり得心がいった。
異世界に行った際の時間調整が面倒だって話なのだから、異世界へ行かない場合は特に問題はないってことなのだ。なるほど。それならあの地下基地は、打ち合わせなどには非常に便利だろう。
となると、「サカキ」なる先客が待っているということになる。会って二回目のタユーと組むだけでも多少の不安があるというのに、初対面の人間も加わって仕事か――泰地は少々気が重くなってきた。
顔には出さないようにしていたつもりだった泰地だが、いきなり背中を強く叩かれた。
「なんだいなんだい、沈んだ顔すんなって。おいらがガッチリ前線に出てってやるから、フォローに徹してくれりゃいいんだよ」
不敵に笑いながらタユーが胸を張る。前で結んである帯で押される形になって、少年は慌てて壁に手を着いて転倒を防ぐ。
(つか、タユーさんはこの激烈に重そうな衣装と異常な高下駄なのに、階段とか全然余裕だったな。もしかしなくとも、身体能力が桁外れなのか?)
やっと半分あたりでしょうか。