057
その57です。
……結局、その後の予定はキャンセルとなった。
約三十分後、オムライスの写真と一緒に「二人の仕事については、南河さんに一任することにしたので夜露四苦」というメールが着信したからだ。
泰地は腸が煮え滾っていたが、ゲアハルトと横北に宥められながら帰宅の途についた。横北はまだしも、ゲアハルトが怒らないのは一言物申したかったが。
イライラを抑えるべくインスタントラーメンで腹を満たした泰地は、こうなった以上は南河Dとはどんな人物かを調べなきゃならんな、と考えた。視聴率のためなら炎上上等、なんて非常識な人物にゲアハルトの今後を任せるわけにはいかない。
「えーっと、みなみかわ――下の名前は何て言ったっけ? まあいいや、有名らしいし、ディレクターって付けとけば検索に引っかかるだろ」
インターネットは利便性の高い道具である。下の名前どころか漢字が分からなくても、こちらが望んだ結果へ絞り込んでくれる。
「あ、検索のトップにウ〇キがあるや。本当に有名人なんだな」
検索の最上位に「南河吟哉は日本のテレビディレクター」という項目が記載されていた。横北が驚いていたとおり、かなり著名な人物らしい。
ウィキ〇ディアの項目へ飛んでみると……生まれは宮城県だが物心つく前に埼玉県へ引っ越したことに始まり、高校生の頃からテレビ番組のADのバイトをしていたことなどがまとめられていた。
そして大学卒業後に在京テレビ局へ就職。五年ほどの下積み生活の末、深夜のバラエティ番組のディレクターとなり、怒涛の快進撃を始める。
深い時間の、しかも新人の担当する番組なんて予算は無いに等しい。だから新人タレントやら無名の芸人を積極的に拾い上げ、アイデア主体の「学園祭のおふざけ一歩手前」のような有様だったが、徐々にカルトな人気を獲得していく。
その後も6本の深夜バラエティ番組を担当し、そのうち3本をいわゆるゴールデン枠へ昇格させたが、本人は「深夜枠以外はやる気はない」と他のディレクターにバトンタッチしている(そして半年であっさり終了)。
斬新でタブーを恐れない企画や才能発掘の確かさなどが評価される一方で、二つの問題点が指摘されている。
ひとつは、自分が育てた新人への当たりが強く、パワハラ疑惑がある点。ただ、語調は乱暴だが「バカ」とか「辞めてしまえ」などの直接的な表現は使ってない、との証言もある。
もうひとつが、どんどん内容が過激になっていき、抗議の電話などが殺到するようになる点。これに関してはプロデューサーなどが注意するのだが、本人はしれっとこう答えたという。
「自分は過激な企画なんて好きじゃないです。出演者がつまらんから、過激な方向へ向かわざるを得ないンです。才能のある奴と組めるなら、自分は盆栽を映してる映像でもギャラ〇シー賞を取る自信があります」
(……これ、全方向で厄介な人物じゃないか)