054
その54です。
「ともかく、そんなこんなで局独自の番組とかは作れないんで、先輩も夕方の情報番組の1コーナーを担当してるんです」
「ふン。あンな地元の適当な飲食店で、アナウンサーにウマいウマい言わせるだけの映像を撮るだけなのに、担当云々なんて名乗るのも恥ずかしい」
「ええ? 南河Dをそんな使い方してるんですか? こう言っちゃなんですが、いっそ独立された方がいいんじゃ……」
ゲアリンデはもちろん、泰地も南河がどれほどの仕事をした人間なのかは知らない。
しかし、今さっき知り合ったばかりの横北にそんな提言をされるのだから、業界内ではかなり評価されているのだろう。
対する南河の返答は、ごくごくシンプルだった。
「自分は自分の満足できる映像を撮りたいだけで、それ以外の面倒はしたくない」
「下宿を取らずにテレビ局内で生活し続けて怒られたりしてましたからねぇ……」
これにはUN芸能事務所三人はドン引きである。
忙しくて帰宅できないなんて話はよく聞くが、そもそも帰宅する場所を用意する気がないとは、極端なんて問題じゃない。
さすがの横北も「このヒト、大丈夫か?」と目が語っていた。が、それでも彼は気を取り直して交渉モードに入った。
「それで、うちの二人を使いたいというのは、どういう意図があっての話ですか?」
「細かいことは考えてない!」
これもうアカンだろ、と泰地は横北を盗み見る。彼も同様の意見だったようで、こめかみのあたりを軽く押さえていた。
しかァし、と南河はゲアハルトを正面から見据えた。
その迫力に若干気圧されながらも、ゲアハルトは視線を逸らさない。
「この――ゲアハルト君だったな? 彼には華がある。そんじょそこらに咲いてたり活けられたりしてるようなもんじゃない。自分には学がないので凡庸な例えしかできないが、文字どおりの高嶺の花だ。見る人すべてをひれ伏させる絶対的な魅力を持っている」
「いや、それは誉め過ぎでしょう」
「君は自分がどれほどの高みにいるかが分かっとらんな。まあいい。高慢でないのは、今も昔も美徳だ」
「先輩は生まれてから鏡を見たことがないみたいですね」
……南河の拳は後輩の脳天へ落下した。
本日は、もう一編投稿させていただきます。