053
その53です。
今度こそ改めて――と、平静を取り戻した様子の南河は、三人が箸を置くのを確認してから切り出した。
「端的に言ってしまえば、自分が演出を担当するコーナーに、そちらの二人を出演していたたきたいという話なンですよ」
「え? 南河Dの番組に?」
ぐっと横北が身を乗り出す。その食いつきの良さに、ゲアハルトも泰地も驚いてしまう。眼前の変なセンスのおっさんは、そんなに凄い人物なのか――と。
そこへ水を差すように白路が横槍を入れた。
「すみません。番組じゃなくて、情報番組の中の一コーナーです」
……詳しい事情を聞くと、こんな感じらしい。
並列首都計画の一環として新たに豊浜都が誕生したのを受けて、テレビ局やラジオ局も新設される運びとなった。
当初は並列首都なのだから東京と同じくネットワークの中心となる放送局を――なんて話が出ていたのだけど、そんなものは一朝一夕に作れるはずがないし、そもそも予算だって厳しいのが現実だ。
紆余曲折の末、三つのテレビ局が誕生したものの、東京のキー局から番組を買い取る、いわゆるローカル局と同等の存在に落ち着いてしまった。将来的には予算を拡充してキー局へ格上げさせる計画らしいが、その目途は全く立っていないに等しい。
ぶっちゃけた話、ここ豊浜カラフルテレビ(通称「トヨカラ」)は、建物だけは立派なのだけど、その懐事情は「首都」なんて呼称が恥ずかしくなってくるような寂しさなのだそうだ。
「だから今現在は、朝と夕方のニュースとかの枠の中で、ローカルなニュースとかネタとかを放送するくらいしかできてないんです」
恥ずかしそうに語る白路。そういえば豊浜独自の番組なんて見たことなかったな、と普段あまりテレビを見ていない泰地も腑に落ちる部分があった。
やや暗く沈みかけた雰囲気を、南河が強引に破壊する。
「だが! この状況こそが狙い目なンだよ! 低予算で何もできそうにないからこそ、創意工夫に磨きがかかるというもンだ!」