051
その51です。
会議室2とされていた部屋に先客はいなかった。
これが幸運だったのかどうかは分からない。
南河はUN芸能事務所三人を適当に座るよう勧め、自らコーヒーを用意し始める。
「UN芸能事務所ねぇ。すまんが、自分はこの春にこの貧乏テレビ局へ左遷されてきた身なので、豊浜界隈の業界事情には詳しくないのでございますの心です」
敬語に慣れていないのか、単純にふざけているだけなのかが見極めにくい。コンビニでよく見るコーヒーメーカーで四杯分を淹れ終えると、それぞれに砂糖とミルクを添えていく。外見に似合わぬ細やかさだ。
南河が着席するのを待って、横北が改めて名刺を差し出した。
「改めて自己紹介をさせていただきます。私はUN芸能事務所でマネージャーをしています横北と申します。先ほども申しましたとおり、本日は三戸様へ挨拶に伺ったのですが、先ほどメールで遅れる旨を伝えましたので……」
「ミト? ああ、あいつに用があったンですか」
そう呟くと、南河は携帯電話で通話を始め……三十秒と経たずに切ってしまう。
「話はつけました。あいつからよろしくと言付けをもらいましたので」
この言葉をにわかに信じられない横北だったが、直後にメールが届き、その中身を確認して納得させられた。やはり噂どおりの人物だったかと認識を新たにする。
「わざわざ私たちのためにしていただいて、ありがとうございます。それで、どのような御用件なのでしょうか?」
一気に切り込んでみる横北。南河相手に腹の探り合いなんて無意味だ。互いの本音をぶつけ合うのがお好みだろう。
ここまで会話に参加していない泰地は、さっきのお姉さんが早く昼食を持ってくることを祈っていたのだが、ゲアハルトに脇を突かれて我に返った。
「ミナミカワさん、何を考えているんですかね?」
ぼそぼそと囁いてくるので耳がこそばゆくなり、泰地はつい身を軽く捩ってしまう。見た目は美少年なのだが、実際は美少女であるのも思春期の少年としては色々と問題だ。
なるべく内心の動揺を隠しつつ「問題ないと思うよ」と答えておく。……どうせ南河の頼みの内容は予想できるから。