050
その50です。
すみませーん、という声とともに、南河の前に女性が割って入ってきた。
この女性がまた強烈だった。着ている服はTシャツにジーパンなのだが、ボディラインの抑揚が非常に女性的で、男性としては暴力的とすら感じるほどの体格だ。加えて、ポニーテールのおかげで露わになっている首筋や眼鏡の下にある垂れ気味な眼も、変な加虐心を喚起させかねない。
女性は自らを白路瀬那と名乗ると、申し訳なさそうに謝罪を始める。
「先輩が失礼してすみませんでした。いきなり威圧するような態度で」
「何を言ってるンだよ、ハクジさんよぅ。自分は丁寧に挨拶したぞ。社長の前でも下げなかった頭まで下げたンだぞ」
「先輩は黙っててください。というか、社長の前で頭を下げないって、常識知らずにも程がありますよ」
「何を言ってるンだよ、ハクジさんよぅ。現場に顔を見せないで口だけ挟んでくるアホウに下げる頭なんざ、ないに決まってるだろうが」
「社長がいちいち現場に出てくるわけないでしょ。一番偉い人なんだから」
「何を言ってるンだよ、ハクジさんよぅ。社長なんざ株主とやらが勝手に決めてどっかから連れてきた馬の骨じゃないか。少なくとも現場には貢献してないぞ」
……どう考えても、この時この場で堂々と喋っていい内容じゃない。空気の読める男である横北が慌てて口を挟んだ。
「すみません。とりあえずお話をお伺いしますので、どこか別の場所へ行きませんか?」
「おお、これは失敬」南河は懐から財布を出すと、そのまま白路へ渡す。「ハクジさんよ、三人の昼メシを適当に包んでもらって、そうだな――三階の会議室2なら空いてるかな? 空いてなかったらメールする」
アッハイ、と白路は素直に頷いてオープンキッチンのおばちゃんの元へ行ってしまう。
それではジブンたちは自分についてきてもらおう、と南河は歩き出す。
その迷いのない、後ろを振り向かない姿に、泰地とゲアハルトは互いの顔を見合わせ、年長者である横北に判断を委ねる。
「ま、まあ、かなり強烈な人だったけど、俺が知ってる南河Dなら顔と名前を知ってもらうだけでも価値があると思うよ」
言ってる本人がそう思い込もうとしているかのような顔になってるのがバレバレだ。