048
その48です。
そもそもだなぁ、と先輩が更に御高説を広げるのを聞き流しながら、白路はプリンを追加するか否かを悩むことにする。
……いや、南河の言わんとしていることは分からないでもない。
乱暴に総括してしまえば、テレビだろうが動画だろうが、そこに映っている何者かが魅力的でなければ、内容が面白くても低評価にされてしまうものなのだ。そして問題は「魅力的というのは美醜とイコールではない」という事実である。
(ただ顔が良いってだけで受けるなら、誰も苦労しないんだよねえ。外見だけじゃない、高い技術とか、内面からにじみ出てくる何かとか、モロモロ全てが高いレベルに達していなければってのが、先輩の欲してやまないカリスマなんだろうけど)
彼女はカメラマンだ。ディレクターである南河のような演出を考える力は乏しいけれど、被写体の良し悪しを判別する力は南河より上だという自信がある。
芸術家としての矜持があるでもない白路としては、現状の仕事に不満はない。カメラを構えていられれば満足、というのが本音だったりする。
だけどその一方で、南河の望む「時代を象徴するスター」をファインダーに収めたいという欲求がないかと問われれば嘘になる。
どれだけ素晴らしい極上の素材でも、万人が視線を外せない輝きを放つ時間というのは長くないのが一般的だ。その一瞬をこの手で切り取ることができれば――と夢想するのは、カメラマンの性であると断言できる。
(まあ、妥協するあたしはもちろん、注文が多い先輩のお眼鏡に敵うような逸材が、言っちゃ悪いけどこんな田舎にいるワケが……)
その時、食堂の出入口から入ってくる人影を察した彼女は、無意識に視線をそちらへ向け――そのまま固まってしまった。
「うン? どうした、ハクジさんよ。カスタードプリンと黒ゴマプリンのどちらを食べようか迷っているンか?」
プリンで悩んでいることがばっちりバレてたのだが、そんな些事に拘泥する余裕はいまの白路にはなかった。
あれ、あれ、と(白昼に人様を指差すのは憚れたので)目で訴える白路に、南河は素直に従ってやって……「ほう」と微笑みを浮かべる。
彼らの視線の先には、ゲアハルト・泰地・横北の三人の姿があった。
本日はここまでです。