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その47です。
南河のドヤ顔を受け、白路は野菜を口に運ぶ仕事を再開したかったのだが、一応は反応しといた方がいいか、と端で野菜を掴んだ中途半端な姿勢で質問をした。
「それって、別に人気動画主を呼ぶのと変わりがないんじゃないですか?」
「ちっがーう。全然、全く、一寸も一厘も、コーヒーにミルクの代わりにカル〇ス入れるくらい違う! 自分が言ってるのは時代の象徴だ。ちょっと人気があるって輩とは根本的に別物なンだよ」
意味が分からない、と野菜の甘味が溶け込んだスープをすする大学時代からの後輩に、南河は自論を展開し始める。
なるほど、今の時代はネットの動画主が大人気だ。小学生にとって憧れの職業第一位になった、なんてデータもある。世界のトップクラスともなれば年収が1億円を超えるとか、景気の良い噂が後を絶たない。
だが、彼らは「時代」を作っているのか?
マイ〇ル・ジャク〇ンが、死後も100億円以上の年収を叩き出していると報道されたことがある。それは極端な例だが、今日現在で人気絶頂な動画主が引退したとして、十年後も彼の動画は再生され続け、その名前を覚えてもらっているだろうか?
「それは……分かりませんよ。引退した後に続く世代がどう評価されるのかって話にもなりますし」
「そうだ。これは誰にも予想できん。でも、不透明である時点で、時代の写し鏡としては失格なンだよ!」
本当の意味でのカリスマであるならば、歴史の教科書に名前が刻まれるレベルでなければいけない。新人のキャッチコピーで使われるフレーズとは重みが違うのだ。
「だから先輩が自分の番組で新人を使っても、すぐ止めてたのは……」
「アレはちと違う。あいつら、ちょっと名前が売れたらコンプラがどーの、視聴者が望むのはこーのと意見してきたからな。あの程度で一端になったと勘違いするなんて、才能がないと喧伝してるに等しいというもんだ」
そんな連中の恨み妬みなんぞ屁でもない、と相変わらずつまらなそうにパスタをフォークで弄ぶ南河。
恨み妬みが積もり積もったから左遷されたんじゃないですか――なんて文句を、白路は野菜と一緒に喉の奥へ流し込んだ。
あと1編更新します。