045
その45です。
「使えますよ」
ごく簡潔な回答だった。
むしろ「え? 使えないの?」と言わんばかりの顔をされてしまった。
「前にも説明しましたけど、私たちは空気中から取り込んだり体内で作ったりした摩素を、環腑で魔法や魔術に変換して行使しています」
「いやだから、魔素なんて空気の中に――」
「ありますよ? 確かに、シェビエツァ王国と比べたら薄めなので、体内の魔素を多めに消費しなければならなくなったので、ちょっと勝手が悪くなってる部分はありますが」
「え? え?」
「だって、ルデル様も魔素があるからこそ様々な祝福をタイジさんに与えられているのではないんですか?」
「え? え?」
常識をちゃぶ台返しされたような感覚に、泰地は目眩を起こしそうになってしまう。
確かに、古今東西において「魔法」の類は語られてきたものである。もしかしたら、そんな伝承の中には本当に魔素を使って奇跡を起こした実例があったのかもしれない。
だからといって、オカルトは絵空事と割り切って生きてきた少年としては、どこかで思考を止めて公安ウン課に入ったようなものである。頭上の魔王サマの存在も、あの地下基地やら廃ビルやらシェビエツァ
国での騒動も、頭のどこかで「夢のようなもの」と考えていた節があった。
けれど、ゲアハルトの「魔素は日本にもある」発言は、日常を打ち砕くインパクトがあった。自分が知っている世界など表面の上澄み程度にしか過ぎない、と告げられたようなものである。
はあ、と泰地は溜息を吐きつつ天井を仰いだ。
(今さら寝言を言ってるのだ、なんて魔王サマに怒られるだろうけど、本当にオカルトな世界に足を突っ込んじまってんだなぁ。……逃げられないかなぁ……)
逆に「どうしてそこまで頑なに信じてなかったのだ?」と窘められそうでもあるが。
書き溜め、打ち止めです。
次回から新展開……になると思います。多分。