043
その43です。
変な空気になりそうなところを、雪郷が軽い調子で助け舟を出した。
「そーゆーこと。彼女――ブルーマロウ・タユーさんは、UN芸能事務所じゃなくて公安ウン課の協力者だ。いわゆる魔法少女ってやつさね」
魔法少女と呼称されたタユーさんは、なぜか「フッ」と自嘲するように笑う。
「魔法少女ねぇ。あの『裁判戦争』じゃ役立たずの邪魔者だったおいらが、そんな呼ばれ方をされるなんてなぁ……」
また聞いたことのない単語が飛び出してきた。
反射的に泰地は「裁判戦争?」と口にしてしまい、自分の失敗を悟った。
「え? おいおいおいおい、裁判戦争を知らないのかい? ハッ、こういっちゃ悪いが、イナカ者ってのはいろいろ面倒なもんだ。どれ、おいらが一つ講釈してやろうじゃないか。そんじゃ、どこから話したもんか――」
講談師よろしく黒い扇で「ぱぱん、ぱん」と拍子を取りながら語りを始めようとしたタユーさんを、今まで沈黙を保っていた横北が素早くカットに入る。
「すみません、タユーさん。彼らはこれから挨拶回りに行かなければならないので、その辺の話はまた後日ということにさせていただけませんか?」
「ん? ああ、芸事の新人さんなんだっけな。こりゃ悪いことをした。おいらのことは気にせず行ってくんな。また会った時はヨロシクってことで」
意外とあっさり止まってくれたので、三人はそそくさと事務所から脱出した。