041
その41です。
UN芸能事務所は、今日もやっぱりマエカケさんがモップで床掃除をしていた。三人が揃って挨拶をすると、彼女は掃除の手を止めて――もちろん無言で頭を下げる。
「マエカケさん」掃除に戻ろうとする彼女をゲアハルトが呼び止める。「先日はありがとうございました。今後もご指導よろしくお願いします」
マエカケさんとゲアハルトが笑顔で頭を下げ合う。しっかりコミュニケーションが取れているようで、泰地は――逆に不安になってきた。
和やかな空気を乱しにかかったのは、社長室から出て来た雪郷だ。
「はよっす。来たかい、お二人さん。横北もお疲れちん」
ネットで「人を不愉快にさせる言葉遣い」を検索してから喋っているのか、と泰地はイライラを募らせる。横北はともかく、ゲアハルトが気分を害していないのが信じられない。
無論、少年の胸中など知ったことではない雪郷は、上機嫌でマエカケさんをちらりと一瞥した後に応接セットへ三人を促した。
「実は、挨拶回りの前に来てもらったのは理由がある。紹介したいヒトがいるんだわ」
「紹介したい人、ですか」
「そうそう。お前さんたちよりも一か月……あるかないかって感じの差で先輩だけど、まあほぼ同期だ」
意外とマトモな理由で呼んだんだな、と泰地は納得しそうになったが、すぐに別に疑問が頭をもたげ、素直に尋ねることにする。
「すみません。それって芸能関係なんですか? それとも……」
「おっ。鋭いじゃないの、孕石ちゃん。ルデル様がお休み中だから張り切ってるのかな?」
そんなことはどうでもいい、と少年が睨みつけると、雪郷は咥えているシナモンスティックをピコピコと上下に動かした。
「その答えは、本人に直接会ったら分かるってもんよ。じゃ、ブルーマロウ・タユーさん、お願いします」
なんだその名前は、と呆れながら振り返った泰地は――そのまま硬直した。
同じく振り返ったゲアハルトは「すみません。私には分かりません」と呟くのが精一杯だった。
今日は令和初日なので、書き溜めていた分を一気に放出してみます。