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その37です。
四人で遊びに行く件に関しては、泰地とゲアリンデに加え、いろはも土曜に用事ができたという話になったため、次週以降へ持ち越しとなってしまった。
「なーんか俺だけ暇ってのもカッコつかないな。俺もバイトやろうかね」
学校生活で一番落ち着ける昼休み。長谷野が軽口で締めてくれたので助かった。
ここ北南高校はバイトには比較的寛容であり、学校内にあるコンビニにはバイト情報誌が届出用紙と一緒に用意されている(ただ、皐会の面子の中にはいい顔をしない勢力がいるとかなんとか)。
だが、実際のところは夏休みなどの長期休暇中に励むのがほとんどであり、泰地たちのように学校と仕事を両立させようとする生徒は非常に稀だ。というよりも、両立そのものを検討する生徒自体がほぼいない。
「バイトするって、本屋か?」
「んー、最近はネット販売に呑まれてどんどん閉店してるからなぁ。男性向け書店なら土下座しても働きたいけど、十八歳未満は門前払いだろうからなぁ」
「男性向け」なるキーワードに女性陣二人の頭上に疑問符が浮かぶ。けれど、発言主に直接質問するのは危険だと本能的に判断し、二人揃って泰地へ注目した。
無論、そんな問いに答えられるはずがない泰地は、自分の弁当を食べる動作で受け流す。今日も貧弱な中身だが、背に腹は代えられない。
(つか、仕事のせいで土日が潰されるから、料理の練習もできなんだよ)
(それは完全に詭弁なのだ。帰宅してから三十分ででも練習すれば、それなりに慣れてくるものなのだ)
魔王サマに正論を突かれ、泰地はこめかみを押さえる。昼休みは毎回のように後悔しているのだけど、帰ったら面倒になってサボってしまう。
ホームシックとまではいかないが、実家生活がいかに楽だったかを痛感する日々である。
(……ちょっと待て? なんで異世界出身、しかも王族で騎士だったゲアリンデが、普通に弁当作って持ってきてるんだよ? 昨日はサンドイッチだけだったけど、今日は卵焼きとかも持ってきてるし?)
(フム。マエカケの教育のおかげなのだ?)
ならば俺も――と、泰地は一瞬考えたが、直後に「地獄の特訓」なんて不吉な単語が思い浮かび、急いで忘れる努力をした。