035
その35です。
「ゴミ取りって必要なんですか? 不具合起こして悪意を吸い取れなくなったとかって話でないのであれば、急いでやる必要はなかったんじゃないですか?」
「リスク管理が分かってないのだ。大事故は小事の積み重ねで裏打ちされるモノなのだ。見逃してしまいがちなミスを潰していくことが、事故防止への最短経路なのだ」
「なんでこういう時はやたら常識的なんですか」
「ルデルは人間だった頃は軍属だったのだ。軍人は常に常識と現実を直視するモノなのだ」
「……軍人は命令系統の遵守が最重要なんじゃないんですか?」
「一般の軍人はそれでいいのだ」
滅茶苦茶だ。だがその一方で少年は納得させられた。
この魔王サマが人間だった頃は、待機命令を無視して出撃するなんてザラにあったし、それを誤魔化すための書類改竄もやってたし、果ては国家元首から命令された後方勤務命令を蹴っていた始末だ。常識云々なんて尋ねるだけ野暮だろう。
どうあれ、話題を元に戻してもらう。
「パソコンなどがスリープばかりしていたら動作が重くなるのと同様なのだ。魔城のシステムも、長期間に亘って何度も魔王の再生・復活を繰り返していた結果、ゴミが溜まって効率が落ちていたのだ」
そんな兆候がどこに、と問おうとした泰地だが、ある人物の顔が脳裏に閃いた。
彼の考えた解答に、魔王サマは「三十点なのだ」とにべもない。
「エックホーフももちろんだが、あの宿屋で襲撃してきた連中を雇った貴族ももちろん、魔王の復活を脅威と思わない連中やら、あまつさえ復活を利用しようとする輩などが表だって出てきている時点で、システムがガバガバになっているのは明白なのだ」
現時点で知り得た情報を整理して俯瞰すれば、この結論に至るのは間違いない。
だったら――だからこそ、確認しなければならない点がある。
「なら余計に復活を先延ばしにしたのはマズかったんじゃないですか?」
「ふん」対する魔王サマの反応は冷淡だ。「こんな馬鹿馬鹿しいシステムに支援してもらっていること自体が間違いなのだ。血を流さねば平和の価値を実感できないのであれば、それがその世界に住む者たちの選択なのだ」