032
その32です。
学校で普通に毎日会っているのだから、電話で話す内容なんて大したものではない。
新しい学校生活の不満や不安、違う高校へ通う友人たちの噂、少し前に約束したいろはを加えた三人で遊ぶ話等々、とりとめもない話がだらだらと続く。
頭をほぼ使わずに舌を動かしていた泰地だが、それでも相手の喋りに微妙な違和を察知してしまう。
相談か――と最初は考えたが、なんとなく違う気がする。どちらかといえば、腹の奥に引っかかっている小さな棘を取り除きたい、といったところだろうか?
なんとなく話題が尽きたところで、泰地は水を向けてみる。
「ところで、なんか教室じゃ離せないようなことがあったのか?」
「あー、ンだね。いやさ、本当にどーでもいいような話なんだけどさ」
長谷野の蟠りの源は、昼休みにゲアリンデを加えた四人で集まった際の会話だった。
自己紹介やら世間話などを広げていく中で、土曜日に行われた親睦会の話題に行き着くのは自然な流れである。不思議な出来事だったのに加え、幕引きがすっきりしなかった事実を共有したい、という欲求があったのかもしれない。
話の流れで、いろはは「店長が吹っ飛ばされたところで気絶してしまった」と語っていたのだが、ここに長谷野は「え?」と問い返しそうになった。
「俺は周りがバタバタ倒れていくのを見てたから、けっこう粘った方だと思うんだけど、気絶する寸前くらいにごろぱっつぁんの声が聞こえた気がしたんだよな」
「……本人の前で言うなよ、ごろぱっつぁんは」
五郎八と書いていろはと読ませる自分の名前をからかわれると、いろはは病的に落ち込んでしまう。あの落胆ぶりは本気で痛々しくて見ていられない。
それは脇に置いといて、いまの長谷野の話は――常識的に判断するなら「気のせいだろ」で片付いてしまう。本人もそれを充分に理解しているから、このような形で打ち明けたのだろう。
しかし、泰地は虫の知らせめいた何かを感じていた。
「フム。無下に無視するには、ちょっと惜しい気がする話なのだ」
……魔王サマと同意見なのは微妙な気分になってしまうのだが。