031
その31です。
「俺って、いつまで騙し討ちみたいなことを繰り返されるんですかね?」
「もちろん、からかい甲斐が尽きるまでなのだ」
魔王サマの無慈悲な回答に、泰地は「でしょうね」と力なく項垂れる。相手が慰めるような性格ではないと承知しているが、それでも期待してしまうのは人のサガか。
(そういう性格だから、からかい易いんだな。あーあ……)
すっかり恒例行事となっている感があるが、今回もヴェリヨが夕食を御馳走してくれた。無責任な上司の尻ぬぐいをしている先輩という図式にも見えるのだけど、今までのアレコレのおかげで、まだ素直に感謝するまでには至っていない。
帰宅したはいいが、引っ越しの手伝いの疲労も加算され、泰地の魂が休息を欲してる。筋肉先輩のおかげで夕食用意の手間が省けたのだけど、風呂やら洗濯やらの諸々が面倒くさくなっている。
「洗濯はサボっても、シャワーくらいは浴びるか」
一人暮らしなのでわざわざ宣言する必要はない。だけど、無言のままでは再び厄介事が舞い込んでくるのではと不安になったからだ。
くだらないゲン担ぎのようなものだったが、それすら裏切られるのだから笑えない。
「ふぉっ?」
唐突な警察手帳端末の着信音に、少年は間の抜けた悲鳴を漏らしてしまう。この程度では魔王サマがツッコんでこないのはありがたい。
「誰だよ……なんだ、長谷野か。もしもし?」
「やっぱ、一人暮らしって自家発電の回数が増える?」
この程度、思春期の男子にとってはジャブよりも軽い牽制だ。というか、泰地としてはむしろ胸の内に溜まっていた暗い感情が極小ながらも抜けていく感覚すらあった。