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その30です。
「横北には、マネージャーの仕事をやってもらってるけど、芸能界での色んな情報を仕入れてもらっている」
ヴェリヨの説明によると、先にも書いたとおり芸能界では公安ウン課の管轄になりそうな事件が発生する蓋然性が高い。
だが、残念ながら警察の仕事は大概が「事件が発生してから」になってしまう場合が多く、未然に防ぐのが可能であっても手が出せない。下手をすれば、人権やら何やらが立ち塞がってくるものである。
まして、公安ウン課が担当をしているのは世間一般では認知されていない案件なのに加え、事件の最初から最後まで「科学的」な立証ができない場合も珍しくない。
結論としては、噂を集めるくらいしか現時点では対処法がない、という話である。他の部署ならば定石となる捜査ノウハウが、公安ウン課では転用が難しいのだ。
「……ということは、その手の事件がそれなりに発生しているのですか?」
ゲアリンデの質問に対する返答は「然り」だった。
「東京とか大阪支部の連中がよく愚痴ってるよ。そらもうドロドロだって。それに比べりゃ、豊浜は最近できたばっかりの街だから、まだシガラミが少ない方なんだよな」
「本当、今はホワイトな職場環境で助かってますよ。東京で働いていた頃は、夜中の二時三時に帰ってきて始発の電車で出勤、なんて当たり前だったし」
あはははは、と快活に笑う横北だが、この発言には泰地やゲアリンデはもちろん、マエカケさんもドン引きした。彼にとっては過去の笑い話として消化しているのだろうけれど、年少者たちにとっては将来を不安にさせるエピソードである。
ネガティブな雰囲気の侵入を防ぐべく、ゲアリンデは積極的に動く。
「と、ところで、横北さんをどうして呼んだんですか? 本当に暇だからじゃないのでしょう?」
「え? いやだから、これから横北がお前さんたちの二人の担当マネージャーになるから挨拶…………って、やっぱボスから聞いてないか。しゃあねえな」