028
その28です。
汗をタオルで拭い、息を多少乱しながら玄関を開けたのは、三十歳前後の青年だった。
泰地が受けた第一印象は「普通」の一言に尽きる。というか、ヴェリヨやら雪郷やらゲアハルトやらゲアリンデやらを立て続けに見た後では、並外れた特徴がない限りは印象が薄く感じてしまうのを避けられない。
玄関から靴をひっかけながら出て来た青年は、呼吸を整えてから軽く頭を下げた。
「はじめまして。俺は横北。UN芸能事務所の人間だ」
人当たりの良い笑顔だ。芸能プロダクションに勤める人間の必須スキルなのだろうか。
改めて泰地は素早く横北氏の全身を一瞥する。
ぶっちゃけてしまえば、やっぱりヴェリヨは当然としても雪郷よりも――というか、成人男性の平均と比べて線がやや細い気がする。痩せ過ぎというほどではないが、公安という仕事を考えると心配になってくるのも事実だ。
少年の胸中を悟ったのか、横北は笑って言葉を続けた。
「いや、俺は警察の人間じゃないよ。民間の協力者って感じ」
「え? それって……」
質問を重ねようとした泰地だが、はたと気付いて止まった。いくら敷地内でも、青空の下で堂々と喋っていい内容じゃない。
同じくそれを察知したヴェリヨが持っていた段ボールを地面に置くと、泰地と横北にほいほいと手渡す。
「それじゃ、さっさと荷物を片付けて孕石の部屋で一服するとしようか」
この提案に、泰地はもちろんゲアリンデも「それはちょっと」と反論する。だが、魔王サマがそれらを常識で一蹴した。
「まだ引っ越しの荷解きも終わってない若い独身女性の部屋に、男が三人も大挙して寛ごうというのだ?」