027
その27です。
「おーぅ、ガッコ終わったか。お疲れーい」
大きな段ボール箱を三弾積み重ねて担いでいる白い筋肉巨人・ヴェリヨが陽気な挨拶をしてきた。それを受ける泰地は溜息しか返せない。誰かさんの好きなように翻弄され、心身共にグロッキーに近い状態だ。
そんな少年を尻目に、ゲアハルトは丁寧に頭を下げて挨拶を返す。
「こんにちは、ヴェリヨさん。すみません、手伝っていただいて」
「なに、こういう力仕事の方が、今の身体には向いてるからな。あと、買い物とか荷造りなんかはマエカケさんが全部やってくれて、男の手は一切入ってないから安心してくれ」
「気を遣っていただいてありがとうございます。マエカケさんは?」
「中で掃除をやってる。……おい、孕石。お前っていいところに住んでんのなぁ。いや、魔王サマと一緒ならむしろダメな方なのかな?」
「住居にはそれほど興味はないのだ。ルデルは座が快適であれば文句ないのだ」
そういうもんですか、と頷きつつヴェリヨは建物へ振り返る。
パッと見た目は比較的大きめな一軒家のようだが、玄関扉が二つ並んでいる。そう、今時よくある建物中央の壁で完全に分断されているタイプのマンションだ。
その片方にルデルと孕石泰地が春から生活しているのだが、今日からはもう片方にゲアリンデが引っ越してきた、という次第である。無論、泰地には事前の通告などなかった。
少年の消沈ぶりを見ていられなくなったゲアリンデが、雰囲気を変えるべくヴェリヨへ別話題を投げる。
「じゃあ、今日はヴェリヨさんとマエカケさんの二人だけなんですか?」
「いや、もう一人ヒマなの連れてきた。荷物運びさせてるけど、あいつ非力でなぁ」
「俺が非力じゃなくて、あんたが異常なんだよ」
玄関の中から抗議の声が響いてきた。
現時点では声だけで姿は見えないけれど、泰地は何となく気が合うんじゃないか――と淡い期待が頭に浮かんだ。