026
その26です。
強引に切り替えるべく、泰地はゲアリンデに「今日は送っていくよ。下宿はどこにあるの?」と尋ねる。
ただでさえ見知らぬ土地につてがほぼ無い状態で引っ越してきた上に、その目立ち過ぎる外見は、平和な法治国家とされている日本でも、豹変した狼男を呼び寄せる満月の光となってしまいかねない。
(つか、異世界とはいえ一国の王族の人間を一人でほいほい出歩かせていいのか? 雪郷はアホか?)
高校の同じクラスへ捻じ込むことで、なし崩し的にボディガード役をさせてしまおうという目論見なら、雪郷の社会人としての常識の無さを嘆く他ない。……今さらな話だが。
しかし、登下校も一緒にさせようというのであれば、話はちょっと違ってくる。深く考える必要もなく、泰地への負担が大きくなるからだ。
王族であるゲアリンデに相応しい、セキュリティ万全のホテルやマンションは、説明するまでもなく豊浜都浜松市の中心部である中区近辺に密集している。そこから二十キロは離れた浜北区に住む泰地では、いくら往復の交通費を支給されても厳しい話である。
「ええっと、ですね……」
ゲアリンデが鞄から携帯端末――警察手帳端末だ――を取り出すと、すいすいと操作を始める。
(偏見じゃないけど、異世界人が携帯電話を普通に違和感なく使っているって、なんかシュールだな)
あの「地下基地」では時間経過がが違っているとは聞いているが、ゲアリンデはどれほどの時間をマエカケさんとの勉強に費やされたのだろうか?
「あ、ここです」
手渡された端末を見ると、航空写真から作成された地図と住所が表示されていた。漢字まで理解してるのか、と彼女の順応力の高さに舌を巻かざるを得ない。
「豊浜市浜松市浜北……って、ん? え?」
絶句する泰地の頭上から同じく液晶画面をのぞき込んで魔王サマが、その文字列にニヤリと微笑む。
「なるほど。ここなら、この世で最高レベルの安全が保障されているのだ」