024
その24です。
あの二人が無毛な議論をしている間に、泰地はゲアハルトを外へ逃がすことにした――のは成功したのだが、ちゃっかりいろはまで追随してきたのは予想外だった。
小走りで校門を抜け、三百メートルほど走ったところで三人は止まり、期せずして同時に大きな溜息を吐く。
「困っちゃうんだよなぁ、皐会の勧誘。何度も断ってるんだけど、あなたの悪いようにはしないからって来るから……」
自分がビシッと断れないのが悪いんだけど、といろはは力なく笑う。
いや、初日にバイトがあるから無理ってきっぱり断ってたじゃん――と泰地はフォローしてみたが、山井嶺華本人があんな調子ではどうしようもない。
むしろ、今後が心配なのはゲアリンデである。
「あの五明田先輩って人、自分が望む結果になるまで絶対に退かないタイプだから、あたしよりも悪し――厄介ね」
「悪質って言っていいと思う。あの手の自分に自信がある人間は、挫折したらしたで別の問題になりそうな気もするしなぁ」
プライドの高い人間がどん底に落とされて病的に屈折する、なんて珍しくない話だ。まして皐会の所属とあっては、コネを駆使して無茶を通してくる可能性だって考えられる。
有効的な対策など思い付かない二人に対し、ここまで沈黙を守っていたゲアリンデが口を開いた。
「二人とも、ごめんなさい。私が毅然とした対応ができなかったせいで、手を煩わせるようなことになってしまって」
頭を下げられてイロハと泰地は慌てた。まだ何か行動を起こしたのでもないのに謝罪される理由がない。というか、根本的な原因は、皐会なんてヘンテコな集団を存続させている学校や行政、そしてそれを面白がっている生徒たちが悪い話なのだ。
「とりあえずは私一人で対応します。それで進展がなかったときは、改めて相談させてください」
ゲアリンデの決意表明に、二人は当然反対した。一人で頑張る必要はない。最初から複数人で当たった方が、変に拗れずに済むだろう、と。
両者譲り合いの平行線を辿ろうとしたが、最後の一人――魔王サマが締めた。
「いざとなったら、兄のゲアハルトに相談すればいいのだ。その時は、ルデルも少しは力を貸してやるのだ」