019
その19です。
……その後、魔王サマから長々と説教を受けた。魔王サマにもコダワリはあるのだろうけれど、御手杵と呼ぶアレを「飛行機」と分類するのは、どうにも納得し難い。
無論、最後は泰地が折れる形で決着したのだけど。
現代日本の勉強をするゲアハルトを残してUN芸能事務所へ戻った泰地を待っていたのは、予告されていたとおり山と積まれた書類の数々だった。騙しているのではないかと疑って然るべき量である。
考えるまでもなく魔王サマがデスクワークで活躍できる道理はなく、少年が慣れない仕事を終わらせたのは陽が傾き始めた頃合いだった。加えて、帰ったらそのまま転寝をしてしまい、目が覚めたのは日曜の午後三時を過ぎている始末。見事に週末が潰れた。
(あらゆる意味で酷過ぎる一日だったな。……まあ、あのラーメン屋は美味かったけど)
そう。書類に埋もれていた少年に、ヴェリヨが昼食を奢ってくれたのだ。なんだかんだで毎回毎回ゴチになっているが、感謝の念があまり湧いてこないのはなぜだろう。
(今回は八十ウン歳のバアさんが一人で切り盛りしてる店だって言われた時は本気で心配だったけど、いい意味で裏切られたなぁ。なつかしい味というか、優しい味というか)
無事に仕事を終わらせられたのも、あのサプライズがあったからかもしれない。できればまた食べに行きたかったのだが、少し遠い上に週末の昼間しか開店していないとの話なので諦めるしかない。
高校生活が始まってまだ一ヶ月も経過してないにもかかわらず、泰地は真面目に授業を受ける気力が見事に枯渇していた。日曜日も寝過ごしてしまったというのに、疲れが身体の芯に溜まってしまっているような感覚である。
かような次第で、一日千秋の思いで放課後を待っていた泰地は、授業終了のチャイムが鳴ると同時にいそいそと帰宅準備を始めた。
「結局一日中拗ねてたな、お前」
「疲れてただけだって……とにかく、さっさと帰るわ」
長谷野の呆れ顔を無視して脱兎のごとく教室から脱出しようとする泰地。彼の第六感か警鐘を鳴らし続けていたのだ。一刻も早く逃げねばロクなことにはならない、と。
残念ながら、この手の予感は的中するものである。
「失礼します」
双子の女生徒がしずしずと扉を開けると同時に、一年二組は奇妙な静寂に包まれた。