018
その18です。
「おーい、ゲアハルトの『教育』はマエカケさんに頼んだから、孕石は――って、この空気は何だよ?」
ノックも無しにドアを開けたヴェリヨが、部屋を満たす妙な重々しさに慄く。しかし、これで澱みが解消されたのか、夏宮の表情に明るさが戻った。
「いや、すまなかった。本人を前にする話じゃなかった。いまの話は忘れてくれ」
「あ、いえ――すみませんでした。自分も軽率でした」
「では、お互い忘れて終わりにしよう」
微笑みつつ夏宮が右手を差し出す。
その意図するところはすぐに分かった泰地だが、「自分のような若造がいいのか?」と躊躇してしまうのは無理もない。
経緯をまるで把握できていないヴェリヨは、ここぞとばかりに空気を読まず、少年の手を取ると強引に夏宮と握手させた。どうあれ、これが正解なのは間違いないのだ。
実際、少年の胸にしつこく残っていた遠慮や蟠りが、相手の掌から伝わる温かさによって薄れていくのが感じられる。こういうやり方もあるのか、と素直に感心させられた。
「では、孕石君。次に会えたときは、御手杵の整備をしていると思う。良かったら、遠慮なく見学してくれ」
「はい、喜んで。やっぱり、巨大ロボットってワクワクしますし」
この何気ない泰地の一言に、夏宮とヴェリヨが「あ、マズい」と表情を強張らせる。
なにか失敗したか、と考えるよりも早く、少年は頭上からじわじわと圧力がかかってきているのをイヤでも認識させられた。
「ロボットではない。御手杵は飛行機なのだ」
「え? いや、あれって、誰がどう見てもロボット……」
「飛行機なのだ。正確には『実験航空機』なのだ。我が座ならば、正確に覚えるのだ」
連休なので、明日も更新させていただきます。