017
その17です。
「えーっと、つまり」こめかみを押さえながら泰地が状況の整理を図る。「夏宮さんたちは自衛官とか某メーカーの人たちで、アレ《・・》の整備全般を担当する、と」
「そのとおり」
事務所に戻り、新たに自分で淹れ直したコーヒーを手に夏宮が肯定する。
夏宮たちは航空自衛隊の隊員であり、航空自衛隊岐阜基地の「飛行開発実験団」から浜松基地へ技術支援のため出向してきた、という体裁になっているのだそうだ。もちろん、本来の任務は「御手杵の整備業務」である。
また、某航空機メーカーの人間も何人か参加しており、官民そろって御手杵をバックアップする体制ができている……らしい。
「それって色々とまずいでしょ。ぶっちゃけ国家予算を使って、あんなモノを作ったんですよね? しかも、こんな地下基地で、自衛隊やら民間企業やらが密かに運用しているなんてバレた日には……」
少年の心配を、頭上の魔王サマが「何をいまさら」と一笑に付す。
「異世界が云々だとか高校生が公安の捜査官をしてるとか、そもそもルデルの存在そのものが常識の枠外なのだ。全体を俯瞰せず枝葉ばかりに気を取られるのは、早死にする人間の典型なのだ」
うぬぬ、と言葉に窮する泰地に、夏宮が優しく諭す。
「孕石君。確かに我々の行いは法を逸脱している。罪を問われれば、厳罰に処されるのは間違いない。しかし――これは私の詭弁だが、日本国民が何も知らず、何も余計な心配をせずに生活をしていられるのであれば、私は泥水で腹を満たすことを厭わない。それは、ここに集まっている彼らも同じ思いだ」
「…………」
「私としては、君のような若い民間人に前線へ向かわせていることが心苦しい。自衛官であり、力を行使できる装備があるにもかかわらず、それを気味のような若者に任せざるを得ないというのは、本当に申し訳ない」
立ち上がった夏宮が深々と頭を下げるのを、泰地は慌てて止める。
雪郷が同じセリフを嘯いたのであれば「はいはい。さよですか」と相手にしない。だが、夏宮の双眸に宿る真摯さが、少年の疑念に凝り固まった思考を溶かした。