016
その16です。
唐突な敬礼に対し、ゲアハルト――ゲアリンデは、驚くと同時に感心してしまう。
(地味な恰好なのに、なんだか凄くカッコよく見える)
シェビエツァ王国でも、式典の類があれば集団行進をするし、王族に対して百人以上の騎士たちが一斉に敬礼する。それらをゲアリンデは、幼いころから幾度となく眺めていたし、規律の美しさや煌びやかな装備などに国家の威信を感じていた。
けれど、いま彼女の前に並んでいるのは、街の職人たちが着ているような地味な服装の男たちであり、本音で言えば王族を出迎えるそれではない。
それでも彼らの堂々とした敬礼は、ゲアリンデの良くも悪くも慣れてしまった精神に喝を入れた。ニホンに強烈な先制ジャブを食らった、という気分である。
ちらりと横を覗くと、泰地は見事に圧倒されていた。おそらくは事前に聞かされていなかったのだろう。ここまで冷遇されると同情が追い付かない。
「ウム。休ませるのだ」
全く臆した様子のないルデルが、号令をかけた人物へ命令する。
「整列、休め!」
ざっ、と左足を軽く真横へ動かし、両手は後ろに回して腰の上あたりで組む。ちっとも楽な姿勢には見えないのだが、こういうモノだと納得するしかない。
一糸乱れぬ全員の動作に、魔王サマはいたく満足した様子で何度も頷いた。
「ウム。日本の自衛隊も所作が美しいのだ。これだけでも、ルデルの新しい愛機――御手杵を任せるに足ると確信できたのだ。ルデルの期待に応える仕事を見せて欲しいのだ」
「はいッ!」
普段は、あまりの広大さゆえに地下空間でありながら声が籠もっているようには聞こえないのだが、この時ばかりは耳をつんざくような大迫力のエコーがかかった。
これからはぼちぼちと更新していくことになると思います。
みなさんも体調には気を付けてください。