014
その14です。
問題となるのは、もちろんゲアハルトの結婚相手だ。
現時点での利害は一致しているのだけれど、将来においては難しい――と国王側が心配するのは当然の話である。実権を握ったエックホーフが外交材料として利用するのは既定路線だろう、と。
一方、エックホーフとしては、ゲアハルトが禍根の因子として様々な災厄を呼び込むのを避けたいのが本音である。
エックホーフの画策する今後の予定は、病弱で国政の激務には向いてないであろうと目されている第二王子(実際は第一なのだが)を排斥し、傀儡として動かせる第三王子を王太子とさせ、行く行くは王位を継承させる――と、まあ実にありきたりなものだ。
この未来設計図を実現させるためには、現国王の長子であり、貴族・市民問わず人気の高いゲアハルトが最大の障壁となる。
第二王子を王太子として、そのまま即位させんと動いていたラインターナー候がこのまま隠居でもしてしまったら、第二王子も遠隔地で「静養」させられてしまうだろう。
しかし、その展開ではエックホーフに敵対する勢力は名実ともに強力な旗印が喪失してしまうこととなり、どうしても強烈な光を放つゲアハルトを担ぎ出す流れとなるのは誰の目にも明らかだ。
そうなると、少数精鋭状態となっているエックホーフ陣営は、ゲアハルトを御輿とする圧倒的な数を前に圧し潰されかねない。
だからといって、ゲアハルトを暗殺するなど愚の骨頂だ。
いやむしろ、今の状況でゲアハルトの身に何かあれば、どんな些事であろうと真っ先にエックホーフが槍玉に挙げられる。それだけは是が非でも避けたい。
「いやはやなのだ。ルデルとエックホーフとやらがあまりに水際立ったやり方で迅速に終わらせてしまったから、双方ともに想定していたソフトランディングな決着ができなくなった、という話なのだ。しかも、両陣営にとって最大の不安材料がゲアハルトになってるとは、何とも皮肉な話なのだ」
有能過ぎるのも時には不幸を呼ぶのだ、と重々しく頷く魔王サマに、人間たちは「ソウデスネー」と追従するしかなかった。