123
その123です。
これが最終回となります。
ぴるる曰く「時間にすればとても短かったが、私の人生観を大きく変えてしまったことは間違いない。そして、私は自分が欲深いことも初めて知った」だそうだ。
だったら元の世界を漫遊すればいい話だと泰地は思うのだが、ぴるるの「欲深さ」はそんなものでは収まらないという。
そして何より、公安ウン課は「来る者拒まず」と言わんばかりに歓迎した。
「パッと見た目は普通の猫なのに意思疎通が問題なく行えるのは得難い戦力だ。人間に比べて警戒され難いし潜入経路や潜伏箇所の選択肢も増えるし」
一応、現段階では「仮採用」――どころか、そもそも日本に連れて来ていいのかどうかの審議段階なのだが、現実は泰地の下宿に居候を決め込み、ゲアリンデにもちゃっかり挨拶を済ませている。
「遅れてすみません――あ、あなたは確か、サカキさん、でした?」
校長室に呼ばれてからずっと教室に戻ってこなかったゲアリンデが、やっと解放されたようだ。
確かに、最近もっとも五明田涼真と接触していたのは彼女だ。
けれど、ずっと塩対応で通していたので語ることなど何もないはずである。それでも今まで拘束されてきたということは、もしかしたら警察から事情聴取もされていたのかもしれない。
「ああ、名前を憶えていてもらっていたとは光栄だね。これから東京へ帰るから、別れの挨拶に来たんだよ。ほんじゃ、な。またそのうち合同でなんかあるだろうな」
「洒落になりませんよ」
ははは、と笑いながら榊は自分のクルマへ乗り込む。……また新幹線で出張と誤魔化して交通費を浮かせたのかな、と泰地は見送りながら少し笑ってしまった。
「さて」
榊のクルマが角を曲がっていったのを確認してから、ゲアリンデが少年へ向き直る。
「約束したとおり、これからぴるるさんの日用品を買いに行きましょう。着替えてきますから、待っててくださいね」
「いや、俺も着替えてくるから」
「というか、そもそも私は屋根のある場所で寝させてくれれば、あとは自分でどうにかできるのだが」
妙に上機嫌なゲアリンデに、泰地は落ち着かせるように、ぴるるはおずおずと自分の意見を具申する。しかし、それに対して彼女は「うん、NOだ!」とばかりにぴるるの顔を覗き込む。
「ダメですよ。変な病気になってしまったら、公安ウン課で仕事ができなくなるじゃないですか。郷に入らば郷に従え、です」
ゲアリンデの出した諺に、ぴるるは助けを求めるように少年を見上げた。けれど、正論であることは間違いないので言い返す言葉など思い浮かばない。
そこへ、魔王サマが場を締めるように言い放った。
「自制によってのみ何事も成し遂げられる。すべてに理解を持たねばならぬのだ」
「明らかに間違っているような話にもですか?」
半ば皮肉で泰地が尋ねると、ルデルは「機会は必ず訪れるのだ」とだけ答えた。
これで終了です。
あとがきめいたモノや今後の予定などは活動報告に書かせていただきます。