122
その122です。
これ以上の深入りは自殺行為だ、と泰地は強引に話題を切り替えた。
「そういえば、タユーさんには会ったんですか?」
「あー、彼女はプライベートに詮索しないってのが契約条件に入ってるから、仕事以外じゃ話ができないんだと」
「なにそれ、羨ましい」
堪らず本音が漏れてしまう。
魔王サマに座とされウン課に所属が決まってから、泰地は一人暮らしを強制され、異世界の王女様とご近所付き合いをする羽目になっているのだ。そういう負担から解放されているのは、問答無用で羨望するしかない。
となると、彼女の正体を知っているのは雪郷だけなのか、と尋ねてみたが、それは違うらしい。完全にプライベートを封殺しているとのことである。
「彼女の能力もよく分からんかったしなぁ。……あのガキ、かなりアレになっちまったらしいけど」
「何があったんですかね、本当に」
あの漆黒の番傘で一瞬覆われた刹那、中で何があったのか?
もしかしたら魔王サマは看破しているのかもしれない。とはいえ、中味を知ってもペラペラ話す性格ではない。興味はあるが、タユー本人からでなければ真相は闇の中である。
(……落ち着いて考えてみると、納得できないことだらけだな)
公安警察という組織の性格からすれば、捜査員個人で把握できる部分が少ないのは当然なのだろう。しかし、自分だけが周囲に全て知られているような気がしてならない。泰地としてはかなり理不尽な気分になってしまう。
(なんつーか、俺一人だけ真っ黒のビニール袋を頭に被らされているような感じだわ)
無論、こんなことを言い出せば『新人だから仕方ないだろ』で終了となる。時間の経過とともに慣れるしかないのだろうか。
でも、やはり納得できない理不尽といえば――
「ともかく、今回はお疲れさんでしたってことで。また一緒に仕事することになったらよろしくな」
「あ、はい。お疲れ様でした」
「ああ。……ぴるるもお疲れさん、だ」
「次に会える日を楽しみにしよう」
……なぜか「三日月の刃」の氏族、ハチワレ猫のぴるるが居候となった事実である。
次回で完結です。