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119/123

119

その119です。

 かちゃり、とティーカップを置く小さな音が、場に静寂を与えた。


 山井嬢のそれではない。


 皐会現会長、豊波継一郎が起こした音だったからである。



 世界有数の自動車製造メーカーであるトヨハ創業者直系に連なる彼は、いかにも「御曹司」然とした線の細い――なんてことはなく、第一印象は「西郷隆盛」と答える人が十人中八人くらいの外見の持ち主。


 そんな彼が優雅に紅茶を飲んでいるのだから、正直なところ違和感が半端ではない。



「落ち着け。そんな対処療法みたいな真似をしたところで、火に油を注ぐだけだ」


 静かに語りながらドライフルーツをつまむ。干しイチジクが彼のお気に入りで、腹を下しても全く懲りずになお食べ続けるらしい。


 しかし、と食い下がろうとするメンバーを、継一郎はお茶のおかわりを呼ぶ仕草で黙らせた。


「皐会に権威などほとんどないだろう。現状は動物園の珍獣として見物されてるのも同然だ。そんなところに権力をかさに着て鎮圧を図って何になる。いたずらに反発を招くだけだ」


「しかし――しかし、これは我々の落ち度ではないのですよ? なのに、このままでは皐会そのものが五明田と同等と見なされてしまいます。そんな屈辱に耐えられません!」



 この反論に頷く者は多い。山井嬢も多少は懸念している部分だ。



 犯罪を犯した者は、一族郎党まとめて差別されてしまうのは、今も昔も変わらない。


 皐会は豊浜都のステータス向上のために(半ば自棄で)作られた組織だ。そのために、行政等から様々な便宜を図ってもらっているのは公然の秘である。もちろん、それを快く思わない人間がいるのは、山井嬢でもさすがに承知している。


 言うまでもなく皐会が今まで清廉潔白であったわけではないし、それに伴って大小の隠蔽工作を行ってきたのも事実だ。



 しかし、今回の一件はマズい部分が多過ぎる。



 五明田父の逮捕自体も問題だが、余罪も大量にあると報道されている。会社も既に売却の方向で動き出しているとも。


 加えて、五明田涼真本人もアレだ。あっさり夜逃げしたのも印象が悪いが、既に学校内で異性関係その他諸々の醜聞で溢れ返っており、たとえ父親が冤罪であり本人も実は聖人君子だったとしても、元に戻れるような状況ではなくなってしまっていた。



(というか、あまりに話が早過ぎる気がする。そう仕向けてる何者かがいると考えた方がいいかも)


 山井嬢は落ち着きなく騒ぐ皐会の面々を無言で観察する。


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