116
その116です
「……で、そのランセって人はどうしたんですか?」
ラジオ体操を終えたゲアリンデが、タオルで額や首筋を拭きつつ泰地に尋ねる。
その顔は、今朝の青空のように爽やかな笑みを浮かべているはずなのに、泰地はなぜか異様な圧力めいたものを感じて慄いてしまう。
「いや、よく分からんのよ」
というのも、ランセいわく「木陰から成長を見守る兄というのも悪くない」そうで、しばらくは泰地が強くなるのを静観する構えらしい。
……つまり、今まさに監視されているかもしれないワケで。
「困った人ですね。というか、本当に強いんですか?」
「少なくとも魔王サマは認めてるようだから」
ウム、と少年の頭上で牛乳を飲むルデルが肯定する。ここまで迷いがないと、ゲアハルトも認めざるを得ない。
とはいえ、疑問が残ってしまうのは泰地も同じだ。
五人の男たちを無力化して(全裸にして)吊るし上げたというのは、確かに凄い実力であると考えるのが普通である。けれど、現実に「ランセ一人で」やったのかどうかを確かめる術がないのがスッキリしない大きな要因となっている。
(でもまあ、一緒に住むとかそんな話をしてなかったから安心だ。安心だよな。安心しよう。安心安心)
少年は必死に胸中で繰り返す。ゲアハルト(ゲアリンデ)が「転校」してきてまだ間もないのに、また転校生が現れるわけがない――そう信じるしかなかった。
「それじゃ、玄関で」
もう一緒に登校することは当たり前になっている。
手を振りながら戻っていくゲアリンデに生返事を返しつつ、泰地は朝のニュースを伝え始めたラジオを手に取った。
「では、次のニュースです。昨日未明、株式会社『雲海』の――」
明日も更新したいと考えています