114
その114です。
「兄貴。ここの地下に色々と溜め込んでいるよな?」
「あ、え、ぃええ、あ?」
「そこの女は二人目の妾だろ? 屋敷も建ててやったんだって? 南湖なんて、風光明媚だよなぁ」
「ちょ、お前、なにッ、おい?」
「ギョウの天星陛下へ熱心に貢いでいたな。書簡もいくつか差し押さえている」
今やコシュ皇子の首から上は、青を通り越して白くなっていた。
ある程度バレていることは覚悟していたのだろうが、そこまで調査が及んでいるとは予想してなかったのだろう。特に「書簡」なる単語を耳にした瞬間、完全に目から光が消えてしまった。
重苦しい沈黙が部屋に下りた――と思いきや、コシュは急に大声をあげる。
「ダメだ! ダメだダメだ! ショウマなんて若造を皇帝にするなんてあり得ん! 認められるはずがない! あんな子供が皇帝なんて、他国に侵略してくれと言わんばかりではないか! ダメに決まっている!」
最後の希望を唾を撒き散らしながら吐き出す。確かにこの主張は無視できないものだ。
ハセン皇国の国力が衰えているのは誰の目にも明らか。そこに人生経験の少ない若者が君主になったとあれば、もはや完全に末期である。外からだけではなく、内からも火の手が上がるだろう。
オーリンは、再びこそこそ抜けだそうとしている妾2号を視線で制すると、湧き上がる感情を声に乗せないように念じつつ口を開いた。
「兄貴。違うんだ。もうそんな状況じゃなくなっている。親父の悪評が広く大陸全土に伝わっている以上、その直系である兄貴や俺よりも、皇国を陰から支えていた叔父貴の子であるショウマが即位した方が、むしろ安定を印象付けられるんだ」
「ッ…………」
コシュは反論しようと大きく息を吸い込み――そのまましぼんでしまう。
弟の説明が尤もであったのもあるが、それ以上に自分が皇帝として荒れた国を治めるなどできないという自覚があったからだった。
本日はもう一編更新させていただきます。